「計算が重すぎる」という壁と、編み物を教えてくれた母

もちろん、この研究にはまだ課題もあります。
オメルチェンコ氏は、数学を現実の編み物に落とし込んだ点を高く評価しています。一方で、新しい編み目の可能性をドーナツ形の図ですべて調べ尽くそうとすると、計算の手間が現実的でないほど膨大になると指摘しています。
今回のロバストニットは、あくまで「数学でほつれに強い編み目を設計できる」ことを示すための実証例という位置づけです。
シマモト氏は、この成果がいつか、ものづくりの現場でより丈夫な布をデザインするきっかけになることを期待しています。
研究チームも、ほつれの広がり方を理詰めで捉えることで、壊れにくさを狙いどおりに調整した布を設計できるようになると述べています。
ちなみに、この研究の舞台裏には、ちょっとほっこりする話もあります。
シマモト氏とオメルチェンコ氏は、どちらもそれぞれの論文を書くにあたって、母親から編み物のアドバイスをもらっていました。
シマモト氏にいたっては、編み物を教えてくれたお礼として、母親を論文の著者に加えたそうです。
オメルチェンコ氏も「繊維の研究者と話すより、彼女と話すほうが少し役に立つこともあった」と振り返っています。
1目落としただけで縦にするすると走っていくあの「はしご」も、ループが2目をまたぐように編み方を変えれば、段を下るごとに縮んで自然に止まるのです。
編み物のほどけやすさは、糸の通し方という作り方そのものと根本的に結びついていたというわけです。
ストッキングの伝線にも、ぜひ同じ数学で歯止めをかけてほしいところです。






















