AIの「手柄」は、どこまでだったのか?

まずメストレ氏の疑問について、今ある報道だけでは白黒はつけられません。
彼の未発表の研究が今回の発見に使われたという、確かな証拠は見つかっていないのです。
一方でメストレ氏は、「レトロン」と呼ばれる遺伝子の仕組みを改変する技術の特許で、発明者の一人に名を連ねています。
レトロンは逆転写酵素とそれに付き添うRNAをセットで持つ仕組みです。この特許には、今回と同じ種類のウイルス「ジャンボファージ」(遺伝情報がとりわけ大きいバクテリオファージ)の逆転写酵素の配列も載っていました。
米国での特許出願は2023年7月に公開されており、ジャンボファージの逆転写酵素について先に研究があったことは記録に残っています。
ただし、それだけでは、Anthropicが示した仕組みの全体像をメストレ氏のチームがすでに解き明かしていたとまでは言えません。
そして解説は、もうひとつ見落とされがちな点を指摘しています。
実は、話題の酵素そのものは、米テキサスA&M大学の科学者チームがすでに見つけていたのです。
Anthropicが「気づいた」と主張しているのは、酵素単体ではなく、もっと大きな仕組みの方でした。
それは、酵素と、同じ並びがくり返されるDNAの配列、そして酵素と組むかもしれない別のタンパク質がそろった仕組みです。
研究者たちは、このくり返し配列から小さなRNA分子が作られていることも突き止めました。
ただし、その証拠の一部は、別の研究チームが2022年に公開したデータを分析し直して得られたものでした。
すでにあるデータから新しい発見が生まれうる一方で、もともとデータを生み出した科学者の功績をきちんと示す大切さも浮かび上がります。
さらに、実験室での実験を行ったのは人間の科学者たちでした。
つまりAIの「大発見」は、先に酵素を見つけた人、データを公開した人、実験台に向かった人たちの仕事の上に成り立っていたのです。




