あなたの「心の声」は、いつ生まれたのか

あなたはいつから頭の中で話せるようになりましたか?
おそらく覚えていないでしょう。
そして、考えてみればあなたの頭の中の言葉が生まれたときは誰も知らず、どこにも記録されていません。
声に出す言葉と違って、頭の中で生じている言葉は、直接見たり聞いたりする術がないからです。
一方で、私たちにとって頭の中の言葉は非常に身近な存在です。
マンガでは、口を結んだ登場人物の頭の上にもくもくとした吹き出しが浮かび、一人称の小説なら地の文のほとんどは主人公の内言です。
そして現実の私たちも、同じことを日常的に行っています。
無茶な仕事を振ってくる上司に笑顔でうなずきながら、頭の中では「くそっ」とつぶやく。
新年には神社で手を合わせて「今年も良い年になりますように」とお祈りをする。
内言を使えばこうした言葉は誰にも聞こえません。
このような内なる言葉の発達に関して、心理学者ヴィゴツキーは、幼児期に見られる「自分に向けた発話」が、次第に内面化していくことで形成されていくと考えました。
たとえば、積み木を積みながら「つぎ、あかいの」とひとりごとを言う子どもの姿を想像してみてください。
このような他者とのコミュニケーションのためではなく、自分に向けて発せられる言葉は私的発話(private speech)と呼ばれます。
ヴィゴツキーによれば、この私的発話は発達とともに内面化され、やがて声に出さない内言へと変わっていくと考えられています[1, 2]。
では、この内言は何の役に立っているのでしょうか。
これまでの研究では、内言を妨害すると、問題解決の成績が落ちることが知られています。
足で床を叩くといった、言葉を使わない妨害よりも、言葉で邪魔をしたときのほうが大きく落ちるのです[3]。
また、自分には内言が少ないと答えた人々を調べた研究では、内言が多いと答えた人々に比べて、単語の並びを覚える課題の成績が低く、韻を踏んでいるかどうかの判断でも間違いが増えました[4]。
これらの研究は、内言が単に言えない気持ちを心の中で吐き出す道具ではなく、私たちの認知機能を支える重要な存在であることを示しています。
では、そんな内言はどうやって調べられるのでしょうか。
大人であれば、「普段、頭の中で自分と会話しますか?」などと質問することも手段の一つとなります。
ところが子どもの内言を調べる場合には、そうはいきません。
「頭の中でお話しできる?」と聞いて「ううん」と返ってきても、それだけでは判断できないからです。
本当に内言を使っていなかったのかもしれませんし、自分の心の中で起きたことをうまく認識したり説明したりできなかっただけかもしれません。
認知機能がまだ育ちきっていない幼い子どもから、研究者が必要とする情報を引き出すのは簡単ではありません。
課題ができなかったとき、その「できない」が「内言がまだない」からなのか、「課題そのものが難しすぎた」からなのか、区別がつきにくいからです。
ブラックボックスになっている幼い子どもの内言の発達を知るには、幼児でも迷わずこなせるほど単純な課題から解きほぐしていく必要があります。
そこで私たちが目をつけたのが、多くの幼児がすでに声に出してできる「数を唱える」という行為でした。




