
・あらゆる種類のレーザー光を用いて、ヒトの細胞や化学物質に含まれる粒子などの微小物体をピンポイントで操作できる光ピンセットの技術が開発された
・従来の光ピンセットはスカラービームにしか対応していなかったが、最新型の装置はベクトルビームにも対応し、複数の粒子を同時に捉えて操作できる
・人体の中のたった1つの細胞を動かしたり、微小の化学物質の反応を観察したり、半導体チップの内部を調べたりすることさえ可能に
レーザーを物体に照射した際に生じる光の放射圧を用いて、ピンセットで物体を捕捉するように細胞や粒子等を捕まえ操作する「光ピンセット」。
器具などで対象物に接触することなく、光の圧力を用いて動かすという技術です。今、この技術がさらに進歩し、さらなる活用範囲の拡張に期待が寄せられています。
南アフリカ共和国のウィットウォーターズランド大学の研究チームが、あらゆる種類のレーザー光を用いて、ヒトの細胞や化学物質に含まれる粒子などの微小物体をピンポイントで操作することができる光ピンセットの技術”holographic optical trapping and tweezing”を開発しました。従来の技術を大幅に改善させたことで注目を集めています。論文は、”Nature”のオンライン雑誌”Scientific Reports”に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41598-018-35889-0
光ピンセットの技術自体は新しいものではありません。1970年代に米国のアーサー・アシュキン氏がはじめて報告して以降、さまざまな改良が重ねられ、今日では細胞骨格の操作、生体高分子の粘弾性測定、細胞操作などに利用されています。アシュキン氏は、光ピンセットの発明に関する功績により、今年のノーベル物理学賞を受賞しました。

アシュキン氏が作った装置の原型は、台と鏡を物理的に動かすことで直接的にレーザー光を動かし、対象物を操作するというものでした。レーザー光は、数マイクロメートル〜数ナノメートルという範囲を、固定して照射することしかできませんでした。このごく狭い照射範囲に光の強い放射圧が加わることで、対象物を捉えて動かします。
その後も改良が加えられ、コンピュータが作ったホログラムを使って、レーザー光を制御できるようになりました。光変調機を使って、光の構造パターンを符号化し、装置内でこのパターンを動かすことで、自動的に対象物を操作するのです。ただし、使用できるレーザー光は、一部の光線(スカラービーム)に限られるという難点がありました。
そこで、ウィットウォーターズランド大学の研究チームは、この制限を取り払い、より柔軟な対象物の操作が可能にできないかと考えました。そして試行錯誤の結果、スカラービームからベクトルビームまで、あらゆる種類のレーザー光に対応し、複数の粒子を同時に捉えて動かすことができる装置の開発に成功したのです。ベクトルビームはごく局所的な照射が可能なため、人体の中のたった1つの細胞を動かしたり、微量の化学物質の反応を観察したり、半導体チップの内部を調べたりすることさえ可能になります。
すべての種類のレーザー光を広くカバーできる装置の誕生により、ミクロな世界へのアクセスはますます容易になりそう。医療分野への応用が特に期待されています。
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/24669
via: sciencedaily / translated & text by まりえってぃ