
■オオテンジクザメの胎仔が、1つの子宮から泳ぎ出て、もう1つの子宮へ移動することが判明
■最初の受精卵から孵化した胎仔が、受精前の卵を胎内で捕食することで、栄養を得ている
■出産前に子宮頚部が時々開き、そこから胎児が頭の先を覗かせる
お腹をキックする赤ちゃんの胎動に不思議な興奮を覚えるお母さんは多いことでしょう。
でも、子宮に退屈した赤ちゃんが、スイスイ泳いで別の子宮に移動して行ってしまうことを想像してみてください。こんな不思議な現象が実際に起きているのが、オオテンジクザメの母親の胎内なのです。
この説を発表したのは沖縄美ら島財団総合研究センターで、海洋生物を研究する冨田武照氏ら。論文は、12月17日付けで雑誌「Ethology」に掲載されました。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/eth.12828
子宮から子宮へと移動するサメの赤ちゃん

オオテンジクザメは、インド洋から太平洋のサンゴ礁がある浅い海に生息する体長3メートルほどのサメです。餌を吸い込む力が強力なことで知られ、沖縄の方言では「タコクワヤー」(タコ喰い屋)と呼ばれています。
サメの一部は、母親の胎内で成長した子ザメを出産する「胎生」を行いますが、オオテンジクザメもその一種です。また、サメの子宮は、卵を運ぶ2つの輸卵管の一部が変化してできているため、サメには2つの子宮があります。
冨田氏らは、水中超音波機器を用いて、妊娠中のオオテンジクザメの体を調べました。調査の結果、胎仔が1つの子宮から泳ぎ出て、もう1つの子宮へ移動するという衝撃の事実が判明。
さらに、移動後の胎仔がよく動き、片方の子宮の中にある胚の数が減っているのに対し、その分もう一方の子宮の中にある胚の数が増えていることが明らかになりました。哺乳類の胎仔は、生まれる前に子宮内でここまで活発に動くことはありませんので、これはオオテンジクザメに特有の現象です。
過去に妊娠中のシロワニを取り扱ったドキュメンタリー番組で、同じように子宮から子宮へと胎仔が泳いで移動する様子が報道されたことがありましたが、その時点では、シロワニの胎仔が普段からこのような行動を取るということを示す決定的な証拠は得られませんでした。