Q3.エボラとって同じウイルスでもインフルとどう違うんですか?
―今回のクラウドファンディングをきっかけにエボラ感染者の人数を調べたら、メディアで報道されているエボラの凶悪さと比べ、比較的身近なインフルエンザと比べると随分少ないという印象を得ました。
先進国で爆発的に流行するインフルエンザとアフリカで流行するエボラ、2つのウイルスの違いはどういった所にあるのでしょうか?
インフルエンザとエボラでは、年間感染者数や死亡者数は比較になりません。インフルエンザの方が圧倒的に多いです。インフルエンザウイルスは呼吸器に感染しますし、病原性も弱いですから、ヒトからヒトに簡単に伝播し、受け継がれ、何十年も世界中で流行しています。またさらに今後、新型ウイルスが登場する可能性も高いと思われます。したがって、いわゆる非常に市場規模の大きい、と言われる感染症です。そういう疾病には多くの予算が投入され、製薬企業もワクチンや治療薬の開発に積極的になれます。
一方、エボラ出血熱は、アフリカで限局して、散発的に発生しています。ウイルスがヒトの間で持続的に受け継がれているわけではなく、その自然宿主(ウイルスを普段持っている野生動物)から偶発的にヒトに伝播します。いつどこで発生するかも予測がつきません。そして、致死率が高く(最も高いときで90%程度)、空気感染もしないので、ヒトの間で長期間受け継がれることは困難なのです。
―エボラは血清が無いまま猛毒のヘビに噛まれるようなものなんですね。
ワクチンや治療薬の開発もインフルエンザのように簡単にはいきません(インフルエンザが簡単だったと言っているわけではないのですが)。エボラウイルスは全身感染する上に、免疫応答を撹乱することが高い致死率の原因となっていて、それに対抗するには一筋縄ではいかないという事です。エボラのワクチンや治療薬の開発がなかなか進まないのは、そういうウイルスの性質に加えて、お金をかけても利益を上げる見込みが薄いことや、臨床試験の最後の段階(効き目を調べる部分)が、普段出来ない(常時発生しているものではないので)という開発上の困難、が主な原因だと思います。
―臨床試験にエボラの自然発生が必要とはもどかしいですね……
しかし、普段はアフリカで起きている風土病的なものとはいえ、2013-2016年の西アフリカのときのように都市部で大規模な流行が起きた場合には、他国に拡散する危険性が高いですし、バイオテロに使用される懸念もあります。エボラの克服は、先進国が進んで取り組まなければならないと思います。
2020年にオリンピックが開催予定でテロ対策が急務の日本にも、バイオテロ防止の観点からエボラ克服の必要性がありそうです。前回の記事にもある通り、現状日本で満足にエボラウイルスを扱える施設が無い状況であることは、我々が思っているよりずっと深刻な問題かもしれません。