あらゆるものにスピードの限界があるように、情報のスピードにも限界があります。
しかしある量子力学の研究チームが、その限界を取り払ってしまいました。
Two-Way Communication with a Single Quantum Particle
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.120.060503
なんと、ある方法により異なる場所にいる二人が、特定の同じ素粒子を用いて同時に1ビットの情報を送信し合うことができるというのです。…これだけでは意味がわかりませんね。
通常、情報のスピードは「1つの素粒子につき1ビット」といった究極の限界のもと、光の速さを超えることはないとされてきましたが、それは「古典の宇宙」での話であって、これに量子力学者たちが関わってくれば話は違います。
「情報スピードに限界がある」とは、つまりこういったこと。
もしあなたが1光年離れた場所にいる友人に “1” や “0” のビットで構成されたメッセージを送りたいとします。あなたは1つの光子(光の素粒子)しか持っていないので、その二進法の数字を1つ光子に乗せて、光のスピードで送信します。
その友人は1年後にメッセージを受け取ります。
もしその友人が光子を用いてあなたに返信したいと考えたならば、あなたはそれからさらに1年返事を待つことになります。もしさらに多くの情報を送りたいのであれば、より多くの光子が必要になります。
しかし、 “Physical Review Letters” で発表された最新研究によると、そのバンド幅(通信速度)を2倍にすることが理論上可能であると示されたのです。
「単一粒子による双方向コミュニケーション」と名付けられたこの方法は、1つの素粒子に2ビットの情報をのせることを可能にしたわけではありません。しかし、この方法により、二人が同時に同じ1つの素粒子を用いて1ビットの情報を送信し合うことができます。
研究者いわく、それを成功させるには、情報の送受信を行う二人が互いの空間にある特定の素粒子を「特別な場所」に位置させる必要があるとのこと。
例えばアリスとボブがこの方法を用いるとします。
もしアリスが “0” を素粒子に乗せ、ボブが “1” を乗せたとします。その場合両者は互いに “1” を見ることになります。この場合、アリスは自分が “0” を乗せたことがわかっているため、ボブが “1” を乗せたことがわかります。そしてボブは自分が “1” を乗せたことがわかっているため、アリスが “0” を乗せたことがわかります。もし両者が “1” あるいは “0” を乗せた場合、二人は “0” を見ることになります。
これによりバンド幅(通信速度)が2倍になったといえるのです。
現実の世界で実現は可能?
では、現実世界でもこの技術を使用できるのでしょうか。ウィーン大学のデル・サント氏らの研究チームは、その可能性を示唆しています。
彼らはビームを用いて光子を分離させ、「特別な場所」に置くことができるとしています。つまり、異なる場所に特定の光子を同時に存在させることができるということです。この方法を用いることで、「単一粒子による双方向コミュニケーション」は机上の空論ではなくなるのです。
さらに彼らは、少し修正を加えれば、安全にこのコミュニケーションを利用できると説明しています。そうすれば、誰にも盗み見されることなく、アリスはボブからのメッセージを確認できることでしょう。
原子や分子よりもさらに小さな世界を扱う量子力学は、ふつうに日常生活を送る私たちにはイメージしにくい世界です。
しかし今回の研究結果が示すように、量子力学は可能性に満ちた学問です。時には想像力を働かせてミクロの世界に飛び込んでみるのもいいかもしれません。
via: livescience/ translated & text by Nazology staff