南大西洋を横断した「海の旅人」
さらに、発見場所も鍵でした。これ以前に、さらに古く約5,300万年前のクジラの祖先が見つかった場所は、インドとパキスタンでした。一体いつ、どのようにして、南アジア地域からアメリカ大陸、さらにはその先へと、クジラが分散していったかは、長年の謎でした。

今回、化石がペルーで発見されたことは、初期のクジラが西向きの表層流に乗って南大西洋を横断したことを示しています。当時、ユーラシア大陸とアメリカ大陸の距離は、今日の半分でした。化石には、「太平洋に到達した旅するクジラ」を意味するPeregocetus pacificusという名前がつけられました。「海の旅人」らしさにあふれるカッコよさですね。
完全に水生のクジラが誕生したのは、約4,100万年〜3,500万年前。6,600万年前に海洋爬虫類や恐竜が絶滅した後のことです。
太古の地球に存在した巨大哺乳動物たちが、どのような過程を経て陸から海へと生息圏を移行させていったのかについて、新しいヒントを与えるこの研究。生命進化の海風は、長い歴史の大海原を越え、ごうごうと吹き抜けてゆきます。