悲しみを洗えるのもまた、悲しみなのかもしれない。
南フロリダ大学の研究者らが、うつ症状のある人は悲しい音楽を好むという研究結果を発表した。将来、音楽療法や音楽セラピーに応用できる可能性がある。
研究は「journal Emotion」に掲載された。
https://psycnet.apa.org/record/2019-10869-001
研究に協力したのは、半数がうつ病と診断された同大学学部生の女性76人。幸せな音楽と悲しい音楽を両方聴かせ、感じたことを説明してもらった。
幸せな音楽はジャック・オッフェンバックの『天国と地獄』、悲しい音楽はサミュエル・バーバーの『弦楽のためのアダージョ』だ。
検証の結果、うつ症状のある人々は悲しい音楽のほうに好感を示しただけでなく、幸せな気分になり、リラックス効果も得ていたことがわかった。
これは「悲しい音楽を聴くと気分が落ち込む」といった一般的なイメージに反するものだろう。
ただ、落ち込んだ人に運動会でお馴染みの『天国と地獄』を聴かせたらそりゃ悲しいほうを選ぶよね、という気がしないでもないが、この研究は2015年に同様の結果を示した先行研究の再現だそうだ。直感的にも理解しやすく、結果自体は信頼性がありそうだ。
また2016年の研究では、悲しい音楽を好む人の傾向として「共感力が高く、悲しい音楽を聴いたときの感情の動きを楽しむ」ということが指摘されている。
うつ症状のある人々が悲しい音楽を好むのは必然的なことなのかもしれない。
音楽療法は、痛みの緩和や心身の健康の回復など、あらゆる分野に採用されている。悲しい音楽は音楽療法では一般的ではないが、この研究が患者とのコミュニケーションの一助になることを願う。