幸福と不幸
私たちの感情は、混沌として不純で、混乱して絡まり合った、時には矛盾だらけのものです。これまでの研究では、ポジティブな感情とネガティブな感情は、相互に独立して脳内に同時に存在できることが示されています。ネガティブな感情は右脳で、ポジティブな感情は左脳で、優先的に処理されます。
ということは、「私たちは常に幸せを感じるようにはできていない」ということを覚えておくことは、かなり重要です。「生きて子孫を残す」という難題に取り組む中で、私たちにはもがき、奮闘し、満足と安全を求め、脅威や痛みを避けることが求められます。
喜びと痛みの共存によってもたらされる感情の競合は、決して手が届くことのない幸福という幻想に比べれば、ずっと現実にマッチしています。
実際、「痛みはすべて悪者だ」と思い込むと、不満や挫折感が強化されるといわれています。痛みもまた必要悪であることを理解することが大切です。
「幸福など存在しない」という仮定は一見ネガティブに聞こえるかもしれませんが、幸福を感じられないことで自分を責めたり、「その『欠点』を直さなければ」と考える必要などまったくないことを理解しておくことは、1つの人生の知恵になるでしょう。喜びと痛みが渾然一体となったところにこそ、人間らしさが存在しているのですから。