Point
■2,000万年前に存在した霊長類「Chilecebus carrascoensis」の頭蓋骨のCTスキャンにより、脳の3D復元モデルが作成された
■嗅球や視神経の状態から、Chilecebus carrascoensisの嗅覚と視覚はともに優れていなかったことが分かり、嗅覚と視の進化は私たちが考えるほど密接には関連していないと示唆された
古い時代の脳なくして、一体どうやって脳の進化を研究することができるのでしょうか?
言われてみればその通りですが、だからといって簡単に古い脳が手に入るわけではありません。
中国科学院のXijun Ni氏とアメリカ自然史博物館のJohn Flynn氏らが、2,000万年前に存在した小さな霊長類「Chilecebus carrascoensis」の、極めて保存状態の良い頭蓋骨のスキャンニングに成功しました。論文は、8月21日付けで雑誌「Science Advances」に掲載されています。
https://advances.sciencemag.org/content/5/8/eaav7913
系統樹に空いた空白を埋める小さな頭蓋骨の存在
ヒトの脳は進化の過程で驚くほど巨大化してきましたが、その特性が発展しはじめた時期はほどんど理解されていません。その原因の一つは、古代に生息した霊長類の頭蓋骨の化石が良い保存状態で残されているケースがかなり限られることです。
およそ3,600万年前、類人猿の祖先である狭鼻下目(旧世界ザル)は、広鼻下目(新世界ザル)から分岐しました。Chilecebusは広鼻下目に属し、体重は530gほどで、初代iPadの重さにも満たないほどの小型の猿です。
実は、頭蓋骨そのものは、1990年代にチリのアンデス山脈の中心の初期中新世の火山砕屑性堆積物の中から発見されていました。新第三紀(中新世・鮮新世)の広鼻下目の化石としてはもっとも保存状態が良いことから、研究者たちは、この化石が「系統樹にぽっかりと空いた空白を埋めるために重要な役割を果たしてくれるのでは?」と期待を寄せています。
Chilecebusはもっとも初期に分岐した広鼻下目の一種として知られており、その分類を行うことをはその分岐郡の祖先の脳の特性を評価する上で特に重要です。