Point
■青銅器時代(紀元前2200〜紀元前800頃)の埋葬地に、社会的不平等と性差別を示す証拠が見つかる
■高位農家の墓地に発見される女性はすべて他地域出身で、地元の成人女性は発見されなかった
■これは貿易ネットワーク拡大のために、娘たちをコミュニティー間で交換していた(嫁がせていた)ことを示す
人類文明の発展において、「持つ者」が生まれれば「持たざる者」も生まれるのが常です。例えば、栄華を誇った古代ギリシアやローマでは、その土台をヘイロータイと呼ばれる奴隷階級や地方の奴隷制農場(ラティフンディウム)が支えていました。
このほど、ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学およびマックス・プランク人類学研究所の共同研究によって、青銅器時代の墓地で埋葬された女性の多くが血縁関係の無い他地域出身であることがわかりました。
これは、このような不平等を伴った社会システムが、古代ギリシアやローマより1500年以上も前に遡る青銅器時代にすでに存在した証拠となると考えられています。
人類の闇は予想以上に根深いのかもしれません。
研究の詳細は、10月10日付けで「Science」に掲載されました。
https://science.sciencemag.org/content/early/2019/10/09/science.aax6219
手放された娘たち
チームが調査したのは、ドイツのアウクスブルク南部に位置する「レッヒ・バレー」から出土した埋葬地です。この墓地は、今から4000年以上も前の「青銅器時代」に属し、多くの人骨が見つかっています。
チームは、同時代中のおよそ200年以内に限定される4〜5世代の農家(104体に及ぶ人骨)の分析を行いました。分析は、人骨のDNA解析から埋葬品の調査、血縁関係の有無まで多岐に渡ります。
その結果、当時の「婚礼習慣」について興味深い事実が発覚しました。
社会的地位の高い農家の主は、すべて男性から男性へと受け継がれており、遺産も息子が相続していました。そうした高位農家の埋葬地に発見される女性は、もれなく他地域出身の女性であり、レッヒ・バレーからは遠く離れた場所の出であったのです。
それから、もともと農家と血縁関係にある地元の娘たちの人骨は見つかっていません。これらは女性たちが若い時を地元で過ごし、ある時期になると別の地域に嫁に出されたことを示しています。
研究主任のアリッサ・ミトニク氏は、こうした婚礼の風習が行われた理由について、次のように説明します。
「青銅器時代は、人類が他地域から入手できる原材料を使って物品の生産を開始した時期でした。そのため、遠いコミュニティーと広大な貿易ネットワークを結ぶ必要性が高まります。おそらく農場主たちは、自分たちの娘を貢物として嫁がせることで、友好関係とネットワーク拡大の促進に用いたのでしょう。」
こうした男性優位の社会システムはその後700年以上にわたって同地で続いたとのことです。
それから数千年の時を経ているにも関わらず、世界にはまだ女性を無理に嫁がせる地域が存在します。人類が続く限り、不平等を根絶することはできないのでしょうか。