ナイアドの軌道が傾いた原因 軌道共鳴とは?
では、衛星ナイアドの軌道はなぜ傾いてしまったのでしょうか?
これには太陽系の惑星や衛星が、なぜ互いにぶつからずにうまい具合に軌道を保ち続けているのかという問題と同じ原因が潜んでいると考えられています。
それが軌道共鳴という神秘的な原理です。
惑星や衛星の軌道は、「2体問題」という中心天体と公転する星の2つだけの影響で考えた近似計算では安定するのですが、他の天体の影響を考慮した場合、崩壊してしまうという問題が存在しています。ところが現実には星は軌道を保ってうまく回っています。
この軌道を安定されるメカニズムとして発見されたのが軌道共鳴です。発見したのは「ラプラスの悪魔」で有名な数学者で物理学者のピエール=シモン・ラプラスです。
軌道共鳴は、数学に精通したラプラスが発見したように、非常に数学的神秘に包まれた不思議な現象です。
惑星や衛星の公転周期が簡単な整数比になった場合、天体同士は共鳴してぶつかったり接近しすぎることなく軌道が安定するのです。
ちょっと何を言っているのかよくわからない、と思う人もいるかもしれません。しかし惑星の公転周期などが整数比になっているという数学的に美しい状態は、もっと簡単な例で理解できます。
地球と金星は公転周期の比が、5:8となっています。これは地球が太陽を5週する間に金星は8週するという意味で、8年間に地球と金星は5回、太陽に対して直列に並ぶことになります。
そしてそのポイントを図に描いてみると…あら不思議、五芒星(ペンタグラム)になるのです。
こうして見ると、先程の天動説の惑星の動きもスピログラフのような綺麗な図形になっているのがわかります。
ナイアドとタラッサについても、この軌道共鳴が働いていると考えられます。
ナイアドとタラッサは100キロメートル程度しかない小さな衛星で、互いの軌道は1850キロメートルしかありません。これは本州よりちょっと長いくらいで、宇宙ではあまりに近い距離です。
そのため2つの天体は非常に近い距離で横に並ぶことより、僅かに軌道を傾けて上下に離れた距離で定期的に並ぶことを選んだのでしょう。
ナイアドはタラッサの上で2回、下で2回追い抜いて直列に並ぶことになります。このとき両者は常に3540キロメートルの距離を空けています。この綺麗に調和した運動が衛星の軌道を安定化させたのです。
その証拠に金星と地球の例のように、この2つの衛星はタラッサを中心に見た場合、綺麗な正弦波を描いているのです。
軌道共鳴で生まれるこうしたパターンは、これまで見つかったことのないものだと言います。
なんとも不思議ですが、宇宙にはこんな美しい数学の神秘が隠れているのです。