- スペインカナリア諸島のMAGIC(チェレンコフ望遠鏡)が地上の望遠鏡では初めてガンマ線バーストの観測に成功した
- 観測されたエネルギーは観測史上最高の1TeVあり、現象のメカニズムに新たな側面があることを明らかにした
- これは45億年前に太陽の数10倍以上の質量を持つ恒星が重力崩壊して、ブラックホールとなる際に放出されたもの
ガンマ線バースト(GRB)は宇宙でもっとも明るく強大な爆発現象です。
その放出されるエネルギーの大部分は「ガンマ線」。これは可視光より遥かに高いエネルギーを持った見えない光(電磁波)です。
ガンマ線バーストは1日に1回は発生していますが、爆発的放射(prompt emission)と呼ばれる最初の放射は数分の1秒から数100秒程度しか続きません。
そのためこれまでの観測では、高エネルギーガンマ線帯域での観測に成功したことはなく、その発生メカニズムの多くは謎に包まれています。
しかし、技術の進歩により、ガンマ線バーストは発生を検出してから数十秒で該当位置に望遠鏡を向けられるようになりました。そしてスペインカナリア諸島に建造された大気チェレンコフ望遠鏡(MAGIC)は、2019年1月、地上から初めてガンマ線バーストの観測に成功したのです。
しかもここで観測されたガンマ線バーストは、観測史上最高となるエネルギーを放っていました。
こうした素早い観測や高いエネルギーの検出は、謎多きガンマ線バーストのメカニズムを解明するための重要な洞察を提供してくれます。
この観測に関する論文は、東京大学宇宙線研究所の日本人の研究者も含む非常に大規模な国際研究チームにより発表され、11月20日付けで英国科学誌『nature』に掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1754-6
ガンマ線バーストが見せる極端なエネルギー放射
今回調査されたガンマ線バーストは、45億光年離れた銀河から放たれており「GRB190114C」と名付けられています。
ここで検出されたエネルギーは観測史上もっとも高く1TeV(テラ電子ボルト)でした。これは可視光の1兆倍というエネルギーです。
電子ボルトとはエネルギー単位の一種で、1eVは電子が1Vの電位差で加速されたときのエネルギーとされています。
この巨大なエネルギーは、ガンマ線バーストでは常に伴っているものと予想されています。この現象では太陽が一生分掛けて放出するエネルギーをほんの数秒で放出します。
こうした高エネルギーを検出できるようになったのは、ガンマ線観測衛星FermiやX線観測衛星Swiftのアラートを受けて、素早く望遠鏡を観測方向へ向けることが可能になったためです。
素早く観測できれば、減衰する前の発生直後の高エネルギーを検出することができ、現象の理解がより深まるのです。
観測したのはMAGICと呼ばれるチェレンコフ望遠鏡です。これはガンマ線が大気中を通り抜けるとき放出されるチェレンコフ光を撮影して、50TeVのガンマ線を観測できるよう建設されたものです。
今回のガンマ線バーストは、大質量星の重力崩壊に伴いブラックホール生成された際、対極した2方向に出たプラズマジェットが発生原因と考えられています。
1TeVという高エネルギーの検出は、ガンマ線バーストの発生について、これまで考えられていたシンクロトロン放射以外のメカニズムも存在していることを明確に表しています。
シンクロトロン放射とは、高エネルギー電子が磁場の中で円運動して加速され電磁波を放射する現象です。こうした電磁加速砲のような原理以外にもガンマ線バーストには高エネルギーを放射するメカニズムが隠れているようです。
現在MAGICは2基で運用されていますが、これは今後4基に増設される予定で、そうなればさらに高い感度で高エネルギーガンマ線を観測可能になると言います。
ガンマ線バーストの謎がすべて明らかになる日も近いかもしれません。