- 骨髄移植を受けた男性の精液を鑑定したところ、ドナーのDNAのみが検出された
- この男性は過去にパイプカット手術を受けており、これが精液内のDNAがドナーのみとなった原因と考えられる
- 医学的に悪影響はないものの、こうしたDNAの混在は法医学の犯罪捜査に混乱を起こす恐れがある
「ドナーの人格の一部が患者に乗り移った」というようなオカルト話は、臓器移植ではよく耳にします。意識はともかく、移植を行うことで、患者は身体の一部にドナーのDNAを混入させることになります。
特に白血病などの治療で重要な骨髄移植は、血液を生産する造血幹細胞を移植するので血液に乗って身体の各部にドナーのDNAが現れることがあります。
ただしこれは、医学的には何の問題もありません。すでに成長した人間の身体に他人のDNAが現れたとしても、それが移植患者の身体の構造を変えてしまったり、性格を変えてしまうということは基本的にありえないからです。
そのため、移植によりドナーのDNAがどこに現れるか、という問題については特に詳細な調査が行われたことはありませんでした。
しかし、DNAを鑑定し証拠として法廷に提出する法医学の世界ではそうも言っていられません。
そこで、米国のネバダ州ワシュー郡にある犯罪研究所は、同州でドイツ人男性のドナーから骨髄移植を受けた男性クリス・ロング氏の協力の下、身体の各部にどのようにドナーのDNAが現れるかの調査を行いました。
すると驚きの発見があったのです。移植から4年後の検査でロング氏の精液サンプルを鑑定した結果、なんと検出されたDNAが完全にドナーとなったドイツ人男性のものになっていたというのです。
骨髄移植によるDNAの混在
骨髄は血液の生産を行っている組織で、骨髄移植とは、造血幹細胞の移植を意味しています。
そのため骨髄移植を行うと血液にドナーのDNAが現れるようになります。これは特に有害なものではなく、医療分野では当たり前と考えられているものです。
今回、調査が行われたネバダ州リノ市在住のクリス・ロング氏は、急性骨髄性白血病の治療のためにドイツ人男性のドナーから提供された骨髄の移植を行いました。
移植から数ヶ月経過後、ロング氏は法医学研究室を運営する知り合いの要請で移植の影響で身体に現れるドナーのDNAの調査に協力することになりました。
この結果、唇や頬、舌から採取した唾液などにドナーのDNAが確認されました。一方、胸や頭髪からはロング氏のみのDNAしか検出されませんでした。
こうした移植により、どこにドナーのDNAが現れるかといった問題は、犯罪捜査でDNA鑑定を行う法医学者にとっては重要な情報となります。
こうしてロング氏は定期的にDNAの検査を長期間受けることになったのです。
そして、骨髄移植を受けてから4年後、彼の精液サンプルをDNA鑑定したところ、そこからはドナーのDNAしか検出されないという問題が発覚したのです。