法医学にとっては大問題
これで一安心という感じがしてしまいますが、これは法医学的には大問題です。
性犯罪などの捜査では、精液のDNA鑑定が決定的な証拠となる場合が多く、ここでまったく他人のDNAが精液から検出されてしまうとなると、容疑者を取り押さえていながら立件できなかったり、または関係ないドナーが冤罪の被害に遭う可能性も考えられるのです。
今回の調査では、ロング氏がパイプカットを行っていたため、精液に精子が含まれた場合にどういった結果が見られるかまで調査を行うことはできませんでしたが、今後の法医学捜査のためにはこうした調査は重要になると考えられます。
骨髄移植によるDNAの混在で捜査が混乱した事例はすでに存在しており、2008年に韓国で交通事故犠牲者の特定にDNA鑑定を行ったところ、男性なのに血液から女性のDNAが検出される、ということがありました。
これは後の調査で、事故の被害者が過去に娘から骨髄移植を受けていたことが判明しています。
米国内で骨髄移植を受ける患者数は年間数万件に昇ると言われています。日本も年間3000件を超える移植が行われています。
犯罪捜査や事故被害者の身元確認で威力を発揮するDNA鑑定ですが、今後の捜査では骨髄移植を受けた人が、事件の被害者や加害者となってしまった場合についても配慮していかなければならないでしょう。
しかし、これは法医学の話であって、普段の生活において骨髄移植を行ったことが問題になることはありません。
今回調査に協力したロング氏も、自らの命をつなぎとめてくれたドイツ人ドナーに最上級の感謝の思いを抱いています。ロング氏はいずれ、自分の命を救ってくれたドナーに直接会ってお礼を言いたいと語っています。
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/45978