農業が広まった世界で「ローラ」は狩猟採集を続けた
ローラの容姿は先に示した通りで、年齢は分かっていませんが、比較的若かったことが伺えます。ガムの中には、アヒルやヘーゼルナッツの残骸も見られることから、ローラは狩猟採集民のグループに属していたようです。
また、ローラの系譜は、スカンジナビア半島ではなく、ヨーロッパ本土にあることも分かりました。Schroeder氏は「おそらく、氷河の後退とともに西ヨーロッパからデンマーク地方へ移動していったのでしょう」と推測します。
一方で、ローラが生きていた約5700年前の新石器時代は、農耕文化がすでに広まっていて、狩猟採集が徐々に減っていた時代でした。彼女が所属するグループは、生活様式を農耕や牧畜に切り替えることなく、狩猟採集を続けていたようです。
その証拠に、ローラには、乳糖への耐性がなかったことが判明しています。乳糖耐性のない人は、牛乳に含まれるラクトース(乳糖)を分解することができず、消化不良・腹痛・下痢の症状を起こします。
乳糖を分解する酵素「ラクターゼ」は、農耕・牧畜が導入されて初めて人類に現れたものです。つまり、ローラの住んでいた地域では、農業の導入がかなり遅れていたことが予測できます。
ローラのグループは、きっと定住よりも自由気ままな移住を選択したのでしょう。