- 風邪ウィルスとインフルエンザウィルスは同時に流行しないことが知られている
- 新たな研究は、これを調査し、インフルエンザA型の感染がライノウィルスの感染を低下させることを発見した
- ウィルス同士の相互作用を利用すれば、もっと簡単に危険なウィルスの流行を制御できる可能性がある
人間同様に、ウィルスの世界にも土地と資源を奪い合う民族戦争があるようです。
インフルエンザは誰もがよく知るとおり、インフルエンザウィルスが原因で起きる病気です。一方、風邪と一般的に呼ばれる病気も何種類かのウィルスが原因で起こっています。
代表的な風邪ウィルスは鼻風邪の原因ライノウィルスや、夏風邪やプール熱として有名なアデノウィルスなど呼吸器に取り付くウィルスです。
原因が別々にある以上、これらの病気を2つ同時に患うことはないのでしょうか?
新しい研究は、こうした可能性について研究し、どうやらウィルス同士が喧嘩するために同時に病気を発症しない可能性があるという報告を行っています。
敵の敵は味方とはいいますが、この場合、体内はどうなっているのでしょうか?
ウィルス戦争
インフルエンザと風邪は、どちらも呼吸器に取り付くウィルスが原因の病気です。しかし、インフルエンザは時折パンデミック(大流行)を起こし、全身症状(関節痛、筋肉痛)や高熱が伴って重症化しやすいため、一般的な風邪とは分けて扱われます。
通常、研究者はこうしたウィルスを別々に研究しています。
しかし、今回の研究者はウィルスの生態系や相互作用を調べるために、インフルエンザウィルスA型およびB型、ライノウィルス、アデノウィルスなど計11種類の呼吸器ウィルスの関係性を調査しました。
調査には、9年間に呼吸器疾患に罹ったスコットランドの36000人以上の患者の、喉と鼻から採取されたサンプルです。
このデータをコンピュータ分析したところ、興味深いことにA型インフルエンザの患者は、その他のウィルスに感染していた患者に比べて、ライノウィルス(鼻風邪)に感染する可能性が70%近く低かったのです。
一般的にもいずれかのウィルスの流行によって、他のウィルスの感染報告が減るという傾向は知られていましたが、実際に十分なサンプルを用いて調査されたのは今回が初めてです。
これがどういった原因で発生しているのか、現在のところ研究チームは特定できていません。ただ、有力な仮説が存在ます。
それは、呼吸器ウィルス同士は、自身を増殖させるためのリソースを呼吸器内で奪い合っている可能性が高いというものです。
ウィルスは特定の細胞に感染し、そこで自分の複製を増殖させていきます。このため、ウィルスたちは増殖に適した細胞を巡って争い合う可能性があるのです。
また、あるウィルスに対する免疫反応が、別の無関係なウィルスに対しても効果を発揮し感染を困難にしている可能性もあります。
もちろん、病気に罹った人はみだりに表を出歩かなくなるので、他のウィルスに出会う確率が下がる、という単純な推測をすることも可能です。
しかし、多くのウィルスがそれぞれ異なる季節に流行する理由や、様々な年齢層で影響が異なる理由、呼吸器ウィルスであっても、鼻や肺、気道など感染部位が異なる理由は、彼らの相互作用によって説明できます。