- 銀河の衝突で生まれたNGC6240は、2つの大質量ブラックホールが存在しておりカオスな状態になっている
- ALMA望遠鏡は、これまでの10倍以上の解像度でこの融合銀河の観測を行っており、様々な新事実を発見している
- 最新観測では、報告されていた第3のブラックホールは存在せず、質量も10分の1程度と考えられる
地球から約4億光年離れた「へびつかい座」の方角に、銀河が衝突して生まれた融合銀河「NGC 6240」があります。
比較的近い距離にあるため、以前から何度も観測されている銀河です。過去の研究では、衝突した片方の銀河の大質量ブラックホールが連星だったため、現在3つのブラックホールが存在している、という報告もされていました。
ただしこれまで観測された画像は、この銀河について十分な解析が行えるほど鮮明なものではありません。
そこで活躍したのが、新しい「ALMA望遠鏡」です。ALMA望遠鏡は解像度が10倍近く向上しており、大質量ブラックホールの影響範囲内にある混沌としたガスの構造まで調査することができます。
ブラックホール近くのガスの様子まで詳細に調査した最新の研究は、これまでのブラックホールに関する予想についても修正するような新事実が報告されています。
衝突によって超大質量ブラックホールを2つも持ち、星間ガスが複雑な乱流を生む融合銀河は一体どうなっているのでしょうか?
この研究論文は、国際天文学チームにより、ハワイ州ホノルルで開催された第235回アメリカ天文学会において、2つの論文として発表されています。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab4db7
https://www.dropbox.com/sh/vd7raj123rs1uwa/AAAHQv_5sVu1qxK2O5gPamrWa?dl=0&preview=ngc6240_apj_final.pdf
2つの超大質量ブラックホール
銀河の様子を理解する鍵は、分子ガス(水素主体の星間ガス)にあります。
ガスは星を形成するための材料であると同時に、超大質量ブラックホールを成長させる材料でもあるのです。
NGC 6240ではほとんどのガスが、銀河核である2つの超大質量ブラックホールの間の領域にあります。以前の観測では、これはブラックホールの降着円盤とされていましたが、今回の観測ではその証拠は見つかりませんでした。
代わりにブラックホールの間のガスには、泡や細長いフィラメント構造の流れが見つかっていて、その一部は秒速500キロメートルという猛烈な速度で外側へ放出されていました。
このガスの放出の原因は現在のところ不明ですが、銀河内のガスは混沌とした複雑な状態にあるようです。
また、こうしたガスの観測はブラックホールの質量を推定するためにも役に立ちます。以前のモデルでは、周辺の星の様子からブラックホールの質量は、太陽の約10億倍だと予想されていました。
しかし今回の観測では、ブラックホールの内側に巻き込まれているガスの影響範囲を調べることでその予想を修正し、質量は太陽の約1億倍程度だと推定されています。
今回の方法に基づいて考えると、これまでの観測されたブラックホールの測定は、どれも5〜90%は質量が余分に推定されていた可能性があるそうです。
またこの銀河では、ガスが予想よりブラックホールにずっと近い場所にあることもわかりました。最終的にはブラックホールに吸い込まれて落ちていくか、高速で排出されることになるでしょう。