- 「ファシバーミス」というカンブリア紀の海中生物は、移動生活から固定生活に切り替えることで脚をなくした
- 体の一部をなくす、いわゆる「先祖返り」した生物としては、地球上で最古のものと考えられる
「ファシバーミス(Facivermis )」はカンブリア紀(約5億4200万年〜4億8830万年前)に生息した海中生物で、サイズは最大で7センチほどしかありません。
取るに足りない小型生物にも思えますが、今回、イギリス・エクセター大学が中国で発見した化石により、ファシバーミスの新たな秘密が明らかにされました。
彼らは、エサを探し歩く移動生活から植物のような固定生活に切り替えたことで、脚をなくしていたのです。
研究主任のリチャード・ハワード氏は「先祖返りした生物としては、これまで確認された中で最も古い」と話します。
研究の詳細は、2月27日付けで「Current Biology」に掲載されました。
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(20)30119-6?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0960982220301196%3Fshowall%3Dtrue
体を退化させた最古の生物
生物の歴史は、「単純」から「複雑」への進化の歴史とも言えます。
原始的な単細胞生物から、より複雑な多細胞生物が誕生したのは約6億3500万年前のエディアカラ紀です。それから、約1億年後のカンブリア紀になって、真の意味での生物の多様化が始まります(カンブリア爆発)。
これにより、今日にも見られる「動物門」のほぼすべてが出揃いました。生物が目や頭、脚、背骨を持ち始めたのもこの頃です。
ファシバーミスもこの時期に生まれました。
彼らは、細長い胴体に、球根のようなお尻、頭部付近に5組(計10本)の手足を持っています。
今回発見された化石は、約5億1800万年前のもので、ファシバーミスの下半身あたりにチューブ型の化石跡が確認されました。これは、彼らが地面に固定された生活を送っており、現代のチューブワームように暮らしていたことを示唆します。
ファシバーミスは、これまで、「脚のない生物(環神経動物)」と「脚のある生物(葉足動物)」の間を埋めるミッシングリンクと思われていました。
しかし、化石の分析から、環神経動物と何の関係もなく、純粋に葉足動物の仲間であることも判明しています。
おそらく、以前は近縁種と同じように、歩行用の脚を下半身に持っていたと思われますが、地中に根をはることで徐々に退化していったのでしょう。
ちなみに、頭部付近に残る5対の手足は、海中からエサをこしとるために使われていたようです。