- 狩猟採集民は、小さなグループが並存する社会を構成し、多層的なネットワークを作っている
- 多層的なネットワークの方が、より大規模で単一的なネットワークよりも情報の回りが速いことが判明
人類が他の生物から一歩抜きん出た理由は、ソーシャルネットワークの力にあります。
現代では、スマホやパソコンの普及により、情報伝達の速度や範囲が格段にアップしていますが、こうしたネットワークは、太古の昔から人類にありました。
特に、狩猟採集民として暮らした初期人類が、発展したのはネットワークの力があったからと言えます。
今回、スイス・チューリッヒ大学は、現代に残るフィリピンの狩猟採集民「アイタ(Agta)」に協力してもらい、初期人類のネットワークがいかに機能していたかについて調査しました。
結果、狩猟採集民のネットワーク力は、人類の発展に大きな役割を果たしたことが明らかになっています。
研究の詳細は、2月28日付けで「Science Advances」に掲載されました。
https://advances.sciencemag.org/content/6/9/eaax5913
狩猟採集民の優れたネットワーク
アイタ族は、フィリピン北端のルソン島に住む狩猟採集民で、1〜5家族が1つのグループを作って暮らしています。
彼らは薬草学のエキスパートとして知られ、それぞれの病やケガに応じて、薬草をもとにした医薬品を開発するそうです。
例えば、歯痛にはバナナの葉を使い、解熱にはクスノキの葉を煎じたお茶を用います。また、新しい医薬品作りに対しても余念がありません。
そこで活躍するのが、グループ間のネットワークです。
今回、研究チームは、成人のアイタ族53名にGPSを持たせ、グループ間の交流回数や内容を1ヶ月にわたり記録しました。調査は、内陸に住むグループと沿岸に住むグループとの両方で実施しています。
数千におよぶ記録から、アイタ族のソーシャルネットワークの全体像が浮かび上がりました。前予想の通り、交流はグループ内で最も活発でしたが、他のグループ間(内陸と沿岸)とも定期的に交流していることが分かっています。
こうしたネットワークは、新しい薬剤を作る際の情報交換や問題解決方の相談・伝達に活用されます。
研究チームは、このネットワークデータを使い、アイタ族がどれくらいの期間で新たな医薬品を生成できるかを割り出すコンピューターモデルを作成しました。
アイタ族は、グループ間で薬草に関する情報を交換し、徐々に品質を高めていきます。
結果、満足のいく医薬品が生成されるまでの交流回数は、内陸部で平均250回、沿岸部で平均500回でした。
研究チームは、これとは別に、コンピューターモデルをいじって、メンバーの全員がお互いに情報を交換する仮想ネットワークを作りました。
これは、小さなグループが共存する狩猟採集民の多層的ネットワークに対し、全員が繋がる単一の大きなネットワークを意味します。
すると驚くことに、全員が互いに繋がっていたにも関わらず、新たな医薬品の生成には平均500〜700回の交流回数が必要だったのです。
これは、単一ネットワークが一度に一つの情報(新発見)を伝達することができないのに対し、多層的な狩猟採集民は、一度に複数の情報を交換できるからだと思われます。
狩猟採集民のネットワークが、人類の進歩を促進し、その後の農耕文化や科学技術の発展へと繋がった可能性も高いでしょう。
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/53254