- ブラックホールは恒星質量と超大質量のものの研究は進んでいるが、中間質量はほとんど見つかっていない
- 中間質量はほとんど活動しないため、星を捕食中を観測しないとならないが、今回の発見はその有力候補
- 中間質量の研究は、超大質量への成長・形成を理解する上でとても重要となる
ブラックホールと一口に言っても、そのサイズは色々存在します。
一般的なのは、1つの星が超新星爆発を起こして誕生する恒星質量ブラックホールで、これは大体太陽の10倍程度の質量を持つものです。
次に盛んに研究されているブラックホールは、銀河の中心に存在するような大質量ブラックホールで、これは太陽の数百万倍という質量を持っています。
ここで疑問として浮かぶのが、両者のあまりに大きな質量の差です。この中間に当たるようなブラックホール、つまり太陽質量の100倍から10万倍くらいの質量のブラックホールはないのでしょうか?
実を言うと、そうした中間質量ブラックホールはほとんど見つかっていません。
候補となるX線源の天体はこれまでも報告がありますが、決め手となる証拠はなかなか掴めていません。
まるで、未確認生物(UMA)のようにとらえどころのない謎の天体なのです。
見つからない理由の1つは、中間質量ブラックホールがほとんど活動していないためです。もしはっきりと見たいならば、それは他の恒星を捕食中のところでも観測するしかありません。
そんな中、新たな研究はそんな食事中の中間質量ブラックホールを発見したと報告したのです。
この研究は、米国ニューハンプシャー大学の研究者Dacheng Lin氏を筆頭とした科学チームより発表され、2020年3月31日付けで天文学研究の科学雑誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載されています。
https://doi.org/10.3847/2041-8213/ab745b
ブラックホールのミッシングリンク
ブラックホールは小さな領域に超高密度で大量の物質が詰め込まれた、巨大な質量を持つ天体です。
この質量が太陽に対してどの程度であるかによって、ブラックホールはカテゴリ分けされます。
一般的なものは、恒星質量ブラックホールで、これは太陽の十倍から数十倍の質量です。
太陽質量の30倍以上の恒星は、超新星爆発を起こすとその核がブラックホール化します。爆発の際、ほとんどの物質は飛び散ってしまうので、ここで生まれるブラックホールは大体太陽の10倍くらいの質量が一般的です。
これより軽い恒星は、超新星爆発後に中性子星となりますが、中性子星も周りの物質を取り込んで太陽質量の14倍を超えると再度超新星爆発(Ⅰa型超新星)を起こしてブラックホール化します。
これは比較的地球に近い天の川銀河内で見つかります。
これらは連星系の片割れとして見つかり、ブラックホール化したあと、伴星を吸い込むことで降着円盤が活発なX線放射を行うので、地球からもよく観測できます。
次によく観測されるのは、銀河系の中心にある大質量ブラックホールで、太陽の数百万倍という巨大な質量を持っています。
巨大になる理由は、非常に星や物質が高密度に集まった領域で形成されたためです。
これも銀河中心の豊富な物質を吸い込んで、激しく活動する降着円盤が強力な電磁波を放つため、よく観測されます。
しかし、一方で太陽質量の100倍から10万倍くらいの中間質量ブラックホールはあまり見つかっていません。
小さいものも大きいものもあるなら、その中間もあるだろう考えるのが普通ですが、なぜ中間サイズのブラックホールは見つからないのでしょう?
ブラックホールは光も吸い込んでしまうので、そのままでは見ることが難しい天体です。恒星質量でも、大質量でも、ブラックホールを観測する場合、必要となるのが活発な降着円盤です。
伴星を持つ連星系や、物質の豊富な銀河中心ならこれが見つけやすいのです。
しかし、中間質量ブラックホールはいずれの領域にもいないと考えられます。大質量になるほど物質が豊富でもなく、連星などは全て食べ尽くしてしまい恒星質量でもない。周りに食べるものがない静かな領域で、ひっそりと息を潜めている。
こうなると、中間質量ブラックホールの観測は、まるで痕跡も残さず、ほとんど活動しない未確認生物(UMA)を探しているようなものでしょう。