ホヤを驚かせると呼吸が止まる
ホヤの入水孔や出水孔など敏感な部分を触って驚かせると、繊毛運動が急に止まることがあります。繊毛運動が止まるので、当然、呼吸も止まります。
この作用自体は以前から知られていましたが、その仕組みの詳細は不明でした。これは、他の生物の繊毛運動停止にも共通することです。
この点を調査するために、西野氏らはホヤのえら組織を使った実験を行ないました。
実験では、繊毛運動を継続させた状態で、繊毛細胞を露出させました。
そして、その部分に神経伝達物質であるアセチルコリンを噴射することで、効率的に繊毛運動を停止できることを発見しました。
さらに、アセチルコリンを感知する遺伝子を分析することで、ホヤが持つ「α7型アセチルコリン受容体」こそが、神経入力に応じて繊毛停止反応を引き起こすと原因だと判明したのです。
受容体とは、刺激を情報に変換する構造のことです。ですから、ホヤが驚いたときの刺激が特定の受容体に伝わり情報に変換され、その情報が繊毛を停止させたことになります。
「α7型アセチルコリン受容体」は、人間においては脳や免疫系の細胞に対して機能しており、アルツハイマー病や統合失調症、記憶の形成、ガンの進行などにも関与しています。
また、繊毛運動の破綻は、「腎嚢胞」などの病気の原因になります。ですから、その仕組みの解明は、今後の医療に大きく役立つと考えられています。