ペンローズ過程は地球で確認できるのか?
その方法について考案したのが、ソビエト連邦の物理学者ヤーコフ・ゼルドビッチです。
70年代初め、ゼルドビッチは金属シリンダー(円柱)にねじれた光を照射したとき、反射する光はエネルギーを得て増幅されるという予想を発表しました。
これは概念的にブラックホールの回転からエネルギーを取り出す、ペンローズ過程と同じ効果を説明しています。
ゼルドビッチの理論は、回転シリンダーに光を当てるだけなので、地球上でも実験は可能です。
ただこの理論では、シリンダーの回転数が照射される光の周波数より大きくなければならないという厳しい制約がありました。
光の周波数を超える回転数となると、それは秒速10億回転を超えなければなりません。これはとても実現できるものではありませんでした。
そのため、彼の理論も結局は思考実験で終わってしまいました。
そこで今回の研究チームの出番となります。彼らはこのゼルドビッチの実験を、音波で代用する方法を発見したのです。
音波は光よりもはるかに周波数の低い波なので、実際に実験することができます。
彼らはゼルドビッチのねじれた光を音で再現するために、リング状にスピーカーの並んだ実験装置を作りました。
ここから発せされたねじれた音波は、回転する吸音材に照射されます。
この回転吸音材を抜けてきた音波をマイクで拾うと、音波は増幅されていたのです。
これはドップラー効果に似た現象が原因だといいます。
論文筆頭著者Marion氏は次のように説明しています。「回転ディスクが十分に速い場合、音波は正の周波数から負の周波数へ変化します。それは回転体の表面からエネルギーを奪うのです。
この実験は、宇宙のブラックホールとはかけ離れた別物に見えますが、実際はペンローズ過程の地球上で実行可能な置き換えだと、研究者は述べています。
この実験では音波が30%増幅していることが確認されました。これはペンローズのブラックホールからのエネルギー抽出と同等の効果です。
半世紀越しでペンローズの理論は実験で確認されました。
これは遠い将来、ブラックホールから無限のエネルギーを吸い上げる複雑な社会が実現可能かもしれないことを示しています。
果たして、未来にはブラックホール発電所が浮かぶ宇宙なんて光景があるのでしょうか?
この研究はグラスゴー大学の研究者Marion Cromb氏を筆頭とした研究チームより発表され、論文は科学雑誌『Nature Physics』に6月22日付けで掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s41567-020-0944-3.
記事内容に一部誤字があったため、修正して再送しております。
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