「ベオスック族(Beothuk)」は、今から約2000年前にカナダ東岸の島・ニューファンドランドに定住した民族です。
最大時で数千人が暮らしていましたが、16世紀初めにヨーロッパ人が入植したことで、病原菌が持ち込まれ、多くのベオスックが命を落としました。さらに、内地に追いやられた彼らは、伝統的な狩猟・採集文化を失い、飢餓状態に陥ったのです。
時代とともに人数は減り、1829年に、最後の生き残りであったシャナウディシト(Shanawdithit)という女性が結核で亡くなり、ベオスック族は歴史の闇に消えて行きました。
ところが、ニューファンドランド・メモリアル大学の最新研究により、ベオスックの遺伝子を持つ男性が、アメリカ南部のテネシー州で見つかったのです。
彼は、ベオスックの血を受け継ぐ「最後の末裔」なのでしょうか。
シャナウディシトの叔父の遺伝子を受け継いでいた
研究主任のスティーブン・カー氏は、調査を行った理由について「ベオスックには生き残りがいる、という話がよく報告されるから」と話しています。
例えば、ベオスックと歴史的・地理的に重なるミクマク族には、「ベオスックの血は代々、子孫に受け継がれている」という伝承がありますし、家系的つながりは証明できないものの、「自分はベオスックの子孫だ」と主張する人がよくいるのです。
そこでカー氏は、これまでに確認されているベオスック族の遺伝データを一から再分析しました。
ニューファンドランドの遺跡から出土したベオスック族18人の遺骨と、最後の女性シャナウディシトの叔父と叔母の頭蓋骨から採取されたミトコンドリアDNA(母から子に受け継がれる遺伝子)を調べています。
その後、アメリカ国立衛生研究所が管理する遺伝子データベース「GenBank」の中に、ベオスックのミトコンドリアDNAと合致するものがないかどうか調査しました。
GenBankには、世界中で実施された遺伝子研究のデータが保存・登録されています。
その結果、世界でただ一人、テネシー在住の男性にシャナウディシトの叔父のDNAとの一致が見られたのです。
男性は「母親の家系を5世代にわたり調べてみたのですが、ベオスックのような初期民族との繋がりは見られなかったので、今回の結果にとても驚いています」と話しました。
どのような流れで男性まで受け継がれたのかは不明ですが、ベオスックの血を引く誰かがアメリカへと渡っていたのかもしれません。
この結果に興味を示したのが、ミクマク族のミセル・ジョー酋長です。
ジョー酋長は、彼らの間に伝わる伝承が証明されたことに驚き、「自分たちとベオスック族の遺伝的つながりも調べてほしい」とカー氏に依頼しました。
現在、GenBankに登録されているミクマク族は一人しかいないそうで、ベオスックとのつながりも十分ありえます。研究チームは今後、ミクマク族と協力して調査を進めていく予定です。
研究の詳細は、4月13日付けで「Genome」に掲載されました。
https://www.nrcresearchpress.com/doi/10.1139/gen-2019-0149#.Xv6R8ZP7Qsk
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/63762
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