2500万年前の忘れ物を2つの実験で炙り出す
シュトラウス氏は耳の筋肉の動きを測定するにあたり、二つの実験を行いました。
一つ目は、予期しない急な音に対する反射的注意力の観察です。
実験は至ってシンプルで、被験者が単調で静かなテキスト音声を聞いている時に、横でいきなり大きな音を立て、耳の反応を観察しました。
二つ目は、上の図に示すように、積極的な注意力に対する反応です。
こちらも方法はシンプルで、様々な方向のスピーカーから複数の音を長し、そのなかに紛れている短い話を被験者に聞き取らせました。
このように実験方法は非常にわかりやすいものでしたが、得られた結果はシュトラウス氏の仮説を証明するものとなったのです。
どちらの実験でも、耳の周りに痕跡として残る筋肉に不随意運動がみられ、被験者の注意を向けようとする方向に向けて耳を傾けようとしていたことが判明します。
上の動画は、実験を行っているときの耳の動きを高解像度ビデオで録画したものになります。
自分では耳が動かないと思っている人も、実際には僅かに動いているようです。
以上の実験から、人類は2500万年前の分岐以降も、耳の周りに基本的な方向付けを行える筋肉を残すと同時に、動きを制御する脳の区画を「神経化石」(神経学的に化石となった回路)として維持し続けていたことがわかりました。
シュトラウス氏は、耳を動かせる人間がいるのは、この化石になりつつある機能を、他の個体と比べて強く残していたからだと結論します。
耳を動かすことが、2500万年前に化石化した神経回路を再起動させていると考えると、進化の壮大さを感じられる気がしますね。