謎の不安感は脳のどこで生じているのか?
ヒトも動物も常に身のまわりの環境に気を配り、潜在的な危険がないかどうかを意識せずともチェックしています。
その中でときに、説明はできないけれど何となく居心地が悪く、嫌な予感がすることがあるでしょう。
この感覚は例えば、目の前に殺人鬼や捕食者など、はっきりした脅威の対象が存在しないので「恐怖」ではありません。
得体の知れないものに漠然とした恐れを抱くゆえに、これは「不安」といえます。
不安を感じること自体は、潜在的な危険を察知している証拠なので、生存には有益といえるでしょう。
しかし不安が過剰になると、適切な判断力を失い、周囲の変化についていけず、適応障害を引き起こす恐れがあります。
そのため、不安感が生じる仕組みを解明することは重要な課題なのです。
そこで研究チームは、こうした謎の不安感が生じる脳領域を探すことにしました。
チームは、不安感をコントロールしているのは「手綱核(たづなかく)」という脳領域ではないかと考えました。
手綱核は、海馬の下側に位置する一対の小さな神経核で、ほぼすべての脊椎動物に見られる古い脳構造です。
意欲や認知機能において重要な役割を担っており、手綱核が異常を起こすと、うつ病や不安障害につながると考えられています。
また今回の研究では、手綱核の中の「アストロサイト」という脳細胞に焦点を当てました。
脳は一般にニューロン(神経細胞)とグリア細胞という2つの細胞によって構成されており、そのグリア細胞の一種をアストロサイトといいます。
アストロサイトは脳内の情報処理や神経伝達物質の濃度調節に関与しているため、チームは不安感の制御にも関わっているのではないかと予想。
マウスを実験台として、手綱核のアストロサイトが不安感を左右するかどうかを検証しました。