軌道距離を考慮したペンギンの排便圧力の再考
今回の研究チームは、こうした過去の研究では、圧力計算において重要となる噴射便の軌道距離が考慮されていないという問題点を指摘しました。
Meyer-Rochow博士の研究では、糞の飛距離は地面についた跡を参考にしていました。これは単純に噴射便の飛んだ水平距離です。しかし、液状の便は噴射されたとき、放物線の軌跡を描いて飛ぶはずです。
となると実際の飛距離は、地面に残った便の跡よりも長いということになります。
これを考慮に入れなければ、ペンギンの排便時の圧力は正確に算出できません。
またペンギンは常に地面の上から水平に便をするわけではありません。少し高い岩場から糞を飛ばす可能性もあるのです。こうした場合の糞の飛距離は、軌道計算も考慮しなければ正しく導くことができません。
もし高い位置にいるペンギンの糞の噴射距離を見誤れば、飼育員に危険が及ぶかもしれません。より一般的なペンギンの便の動きを理解することは非常に重要です。
そこで、研究チームはペンギンが糞を飛ばした軌跡の高さの平均を調べ、それを組み込んで圧力計算式をアップデートさせました。
空気抵抗のない場合の発射体の軌道は、ニュートンの運動方程式で記述できます。
またこの計算には、糞が非常にゆるい非粘性流体の場合、エネルギー保存に関するベルヌーイの定理が適用できます。
さらに便の粘度による飛距離の影響は、ニュートン流体から推定することができます。
こうしたアプローチから再計算された高い位置から放たれるペンギンの糞便の最大飛距離は、1.34メートルとわかりました。これは人間とペンギンが同じ腹圧だったと考えた場合、人間のうんちが3m飛ぶことになると研究者は述べています。
なお、この最大飛距離の計算では、ペンギンの便が非常にゆるい状態を想定していて、お腹を壊して完全流体として便が振る舞った場合という条件が付いています。
ペンギンの体調が良ければ、糞の飛距離はもう少し短く抑えられるかもしれません。
研究者たちは、こうした研究がペンギンの飛び散る糞から飼育員を救うために重要であり、またこうした危険を回避するための、新米飼育員へのレクチャーにおいても有用だと述べています。
ペンギンの飼育は、糞便を浴びる危険と隣り合わせの厳しい仕事です。この研究が1人でも多くの飼育員を救ってくれることを祈らずにはいられません。
この研究は、高知大学の田島裕之氏と桂浜水族館の藤沢史弥氏の共同研究チームより発表され、論文は現在プレプリントサーバーarxivに公開されています。
https://arxiv.org/abs/2007.00926v1
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