細菌は極貧栄養環境で1億年間パッケージングされていた
近年になって、地球の地殻深くにも生命が存在することがわかってきました。
しかし海底にある特定の地層は他の地殻と比べて圧倒的に栄養素が足りません。このような極小栄養環境でも生命が存在できるかは、長い間わかっていませんでした。
そこで日本の研究チームは、南太平洋の水深6000mにある極小栄養環境として知られる地層を採掘しました。
この地層は栄養素が少ないだけでなく、周囲をガラスの材料として知られる二酸化ケイ素で覆われており、地層が形成された1億150万年前から生命の出入りが封じられた、一種のタイムボックスになっています。
研究者はこの地層を取り出して、窒素と炭素に特有の同位体を混入した(タグ付けした)栄養素を加えて培養をはじめました。
もしタイムボックスの中にまだ生きている生命がいた場合、新たに混入したタグ付きの炭素と窒素を取り込むはずです。
結果は驚きでした。
培養をはじめておよそ10週間あまりで、タグ付きの炭素と窒素は活発に成長・分裂を繰り返す小さな生命に取り込まれていることが判明したのです。
このことから、微生物は地球で最も貧しい栄養環境の中にあっても、1億年以上ものあいだ生きながらえていたのです。
また研究チームは、復活した6986個の細胞の遺伝子を分析して、どのタイプの生命が存在していたのかを調べました。
結果、そのほとんどが酸素呼吸能力をもった好気性の細菌であることがわかりました。
細菌たちは地層に閉じ込められている間に、一種の冬眠状態になることで活動を停止させ、生存に必要な呼吸やエネルギー消費を極限までなくし、復活の日を待ち続けていたのです。
また興味深いことに、細菌たちの復活にかかる時間や復活に要する環境が、種類によって大きく異なることがわかりました。
上の図では復活に必要な培養条件や培養時間などの複数の異なる要因の違いを、2次元のグラフに落とし込んで可視化したものになります。
グラフからは各点が大きく散らばっていることが読み取れ、細菌ごとに復活に必要な時間や復活に必要な栄養素も異なることがわかります。
このことは、長い間閉じ込められていた生物は新環境に対して非常に慎重であることを意味します。
この慎重性もまた、長期の閉じ込めを生き残る為には必須なのでしょう。
新しい栄養に富んだ環境が一過性に過ぎない場合、下手な増殖はただでさえ少ない資源の枯渇を早め、自らの首を絞めることに繋がるからです。