ウイルスの挙動を数学的にモデル化
研究グループはウイルス繁栄戦略を明らかにするため、2つのC型肝炎ウイルス(HCV)株を使って感染実験を行いました。
1つは患者から採取された臨床分離株。1つは実験室で遺伝子組み換えされた実験室株です。
実験室株は、抗ウイルス剤やワクチンの開発などで大量のウイルスが必要となったときに使用されるもので、細胞内で増殖したウイルスの放出プロセスが臨床分離株とは異なっていました。
そこで、この2つのウイルス株を複製と放出の比較に利用したのです。
研究者たちは感染細胞を培養して、得られた実験データをもとにウイルス生活環の数学的モデルを作りました。
ウイルス生活環とは細胞に感染して、複製を作り、そこから感染性ウイルスを放出するまでの一巡を指します。
結果、臨床分離株は細胞に留まってRNAの複製をより強固に増やすことに専念し、実験室株は細胞内での複製はそこそこに行い、積極的に複製したウイルスを放出する道を選んでいることがわかりました。
これにより実験室株は、臨床分離株より1.82倍も速く感染が広がり、感染細胞を使って2.7倍も速くウイルスを生成していたのです。
これはウイルスによって、うちに籠りがちな「インドア派」と、積極的に外へ出ていこうとする「アウトドア派」のような個性があるものだ、と研究のプレスリリースでは表現されています。
先のゲームの例えでいうなら、プレイヤーの性格によって内政重視と開拓重視に遊び方が分かれるようなもので、ウイルスにもそうした個性があるということでしょう。
ウイルスたちは個々にこうした異なる戦略を使い分けて生存していたのです。
これを数学モデルで見た場合、インドア派のウイルスは「増えやすさ」を示す指標の値が、アウトドア派のウイルスは「伝播しやすさ」を示す指標の値が、それぞれ最大に近づくように振る舞っていたのです。