4VAを塗った粘着シートは多くのバッタを捕らえた
現在、巨大化したバッタの群れを排除するために、主として殺虫剤が用いられています。
ですが結果は焼石に水と言わざるをえません。
畑にわく害虫とは異なり、バッタの群れは移動するからです。
空中に散布した殺虫剤は、外気によってあっという間に希釈され効果が減少する一方、場合によってはバッタ以外の益虫も殺すことになってしまいます。
しかし今回の研究によってバッタとの闘いは新たな局面を迎えることになるでしょう。
4VAはバッタにとって群集化を促す武器である一方で、罠のエサとして使うことができるからです。
すなわち、人工的に合成された大量の4VAを使ってバッタの群れを一か所に誘引し、僅かな量の殺虫剤で一網打尽にすることができるかもしれません。
実際、今回の研究においても4VAと粘着性のトラップを組み合わせた装置が試作され、野生のバッタを短時間で大量に捕獲することに成功しています。
野生のバッタは研究者が作った4VAに引き寄せられ、ゴキブリホイホイのような粘着トラップに次々とかかっていったのです。
ですがこれら直接的な退治はどんなに効率化できても、コストがかかります。
そこで研究者は4VAを感知する嗅覚遺伝子(Or35)を破壊した変異体を野生に解き放つ方法を提案しています。
もし変異体が野生で大きな比率を占めるようになれば、群集化の起こる回数や規模を縮小できるかもしれません。
ただこの方法は野生生物に対する強制的な遺伝子書き換えにほかならず、長期的な結果が予測不能です。
そのため次善の策として、バッタの嗅覚を破壊する薬もあげられています。
いくら効率化されても、殺虫剤はバッタを直接的に殺すために非常に高い選択圧(進化の圧力)を生じさせ、いつかは耐性をもったバッタが生まれるでしょう。
人類は殺虫剤に変わる新しい害虫対策を実行しなくてはならないのかもしれません。
研究内容は中国、有害生物とげっ歯類の統合管理の国家主要研究所のXiaojiao Guo氏らによってまとめられ、8月12日に世界で最も権威ある学術雑誌「Nature」に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2610-4