戦いはオスから仕掛けていた
スプリングボックカマキリのオスがメスと戦っているという話は、実はいくつか逸話的な証言がありました。
中でも興味深いものは、オスのほうからメスにとびかかり、激しい格闘を行っていたという内容です。
しかし真面目な研究者たちの間では、長らく都市伝説的な扱いでした。
メスが栄養のためにオスを食べるのは理にかなっている一方で、オスからメスに襲い掛かる理由などなかったからです。
しかしオークランド大学のネイサンW.パーク氏ら2人の研究者たちは、あえてこのオカルトな内容に挑みました。
パーク氏らは52組のスプリングボックカマキリのオスとメスを出会わせ、24時間にわたり観察を行ったのです。
結果、意外な事実がみえてきました。
オスとメスの物理的な接触は、逸話どおり常にオスからメスへのとびかかるような襲撃からはじまっていたのです。
襲い掛かられたメスも直ぐに戦いに応じて、闘争はエスカレートしていきます。
この激しい戦いの結果を示したのが上の図になります。
35%のケースではメスが勝者となり、オスは全く交尾することなくメスに食べられてしまいました。
しかし58%のケースでは、オスがメスに勝利しました。
そして勝利したオスの3分の2はメスをカマで抑え込み、交尾がはじまります。
しかしまだ油断できません。
交尾を成功させたオスの半分は、抑え込みを解いて逃げようとした瞬間にメスに襲われ、食べられてしまったからです。
戦いに勝ち、交尾の成功と逃走を成し遂げられたのは、残りの半分のオスと、奇跡的に争いなく交尾ができた者のみ。
交尾前に敗れて喰われたオスを含めると、交尾後に生存できたのは、全オスの30%ほどに過ぎませんでした。
交尾を試みメスに近づいたオス10匹のうち7匹がメスに食われた計算になります。
しかし詳細な観察は、より興味深い結果を発見しました。
特に暴力的なオスは、メスを積極的に傷つけていたのです。
オスに負けたメスの14%はオスの襲撃により、かなりの怪我を負っていたのです。
オスが主に狙ったのは、メスの腹部でした(メスが狙うのはオスの頭部)。
怪我をしたメスの体からは体液が失われ、治癒には数日を要しました。
生き物のオスが交尾相手のメスに深い傷を負わせる事例は非常に珍しいと言えるでしょう。