腸内細菌叢と子どもの成長の意外な関係
この研究において不思議なことは、新生児の抗生物質は生後14日以内の一時的なもので、長期的な投与などは行われていなかった点です。
そのため調査時、抗生物質を投与された赤ちゃんは、生後1カ月の段階では他の子と比較して有意に腸内細菌叢の豊富さが低い状態でしたが、生後6カ月には、他の子と変わらないレベルまで細菌の豊富さが回復していました。
そして、12カ月から24カ月の間では、十分に高いレベルの細菌の豊富さを獲得していたのです。
それにも関わらず、抗生物質を投与された子どもは6歳までの体重、身長の発育が他のこと比べて明らかに低かったのです。
そこで、研究チームは抗生物質を投与された赤ちゃんの腸内細菌叢と、投与されなかった赤ちゃんの腸内細菌叢を採取して、無菌状態のマウスに与えて成長の変化を確認してみました。
すると抗生物質を投与された赤ちゃんの細菌を移植されたオスのマウスは、他のマウスより成長後の体がはるかに小さかったのです。
これは明らかに、生後14日以内に抗生物質の投与が腸内細菌叢の組成を変化させ、それが体の成長に長期間障害を与えていることを示唆しています。
ただ、不思議なことに女児ではこの傾向が見られませんでした。
この理由は現在も調査中で、明らかにはなっていませんが、男性と女性は生後2日という早い段階から腸内の遺伝子に違いが確認されるといいます。
こうした腸の遺伝子発現の性差が関連している可能性は高いと考えられます。
新生児の一時期に投与された抗生物質が、長期的な影響を及ぼす可能性が今回の研究によって示されました。
ただ、抗生物質は細菌感染の治療に欠かすことのできない重要な薬であり、子どもの命を救うものです。
長期的な望ましくない影響は考慮していかなければなりませんが、新生児への抗生物質の治療を拒む理由にはならないでしょう。
腸内細菌叢には、生物にとって意外なほどさまざまな影響があることが以前から報告されていますが、生後にどういった組成になったかということが、その後の発育に影響しているというのは、驚くべき報告です。