これまで謎に包まれていた氷河期の北極海
海に浮かんだ氷床の存在は、陸上を覆った氷床や氷河に比べて、ほとんど地質学的な痕跡を残しません。
そのため、これまでは氷河期の北極海がどのような状態だったかは明確ではありませんでした。
今回の研究チームは、これを明らかにするために、グリーンランドとスヴァールバル諸島の間に位置するフラム海峡と、北欧海の堆積物コアに目を向けました。
コアというのは筒状に地面をくり抜いて採取された地層のサンプルのようなものをいいます。この長い円柱状の堆積物には、各層が形成された歴史が保存されています。
チームは10カ所から採取した、この堆積物コアを分析しました。
するとどのコアからも、同じ間隔である重要な指標の欠落している層が2つあることを発見したのです。
その重要な指標とは、トリウム230と呼ばれる元素です。
「塩水では、天然に存在するウランが崩壊するとき、常に同位体トリウム230が生成されます。これは海底に蓄積しますが、半減期が7万5千年もあるため、非常に長い期間検出することが可能なのです」
研究の筆頭著者であるアルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所のウォルター・ガイベルト氏はそのように説明しています。
つまり、堆積物コアの中で、定期的に広範囲にわたってトリウム230が不在となっていたことの、唯一の合理的な解釈は、北極海が歴史上少なくとも2回は淡水になっていたと考えることなのです。