声マネは交尾を成功させるためのダシだった
コトドリの声マネは、2009年に、BBCのドキュメンタリーシリーズ 「Planet Earth」 で紹介されたことで、一時話題となりました。
その正確無比な声マネは予想のはるか上をいき、他種の鳥類の声だけでなく、一度聞いただけのカメラのシャッター音やチェーンソーの音まで、完璧に真似てしまいます。
その驚異のテクニックがこちら。
その中で、研究チームが注目した声マネが「モビング(mobbing)」です。
モビングとは、鳥たちが天敵を見つけたときに群れで発する騒ぎ声で、仲間への警告や、天敵への威嚇の意味があります。
モビングには、複数種の鳥の声が混ざるのですが、その全パートをコトドリ(オス)は1羽でやってのけます。
ボイスパーカッションのような感じですね。
しかも、コトドリはモビングを天敵がいないところでおこなうのです。
ここからチームは、モビングがメスとの性的接触に何らかの関係があると見て、調査を開始しました。
オーストラリア・シャーブルックフォレストにて、11羽のコトドリ(オス)の発声を録音し、モビングが使用される状況を調べました。
すると、チームの予想通り、モビングはメスが近くにいるときに使用されていました。
さらに観察を続けると、モビングは、
・メスとの交尾前ではなく、交尾の真っ最中
・メスが近づいてきても、交尾せずにオスから去ろうとしたとき
の2つの状況下でのみ使われていたのです。
研究主任のアナスタシア・ダルジエル氏は「モビングは、性的アピールというより、それによってメスの注意をそらして交尾を成功させるための狡猾な方法と見られる」と指摘します。
こちらがモビングの様子。
つまり、オスは「敵発見、危ないぞ、逃げろ!」という意味のモビングを使って、メスを自分の方におびき寄せ、メスが怖がっている隙にことを済ましてしまおう、という魂胆だったのです。
しかも、交尾の際、自分が発声しているとバレないよう、尾羽でメスの目を隠すという徹底ぶりでした。
ダルジエル氏は「これは鳥類の性淘汰として、新たな視点を提示するもの」といいます。
ダーウィンが唱えた従来の性淘汰説によれば、オスたちはメスへの性的アピールとして、派手な見た目を競争して進化させてきました。
しかし、コトドリに関しては、尾羽より、メスを騙す声マネの方をこそ複雑に進化させてきたのではないかと考えられるのです。
ダルジエル氏は「コトドリは、発声によっていかにメスをおびき寄せ、交尾を成功させられるかに苦心しているのであって、尾羽はあくまで最終手段なのかもしれない」と考えています。
また、声マネという言語的な道具をアピールに使うコトドリは、他の鳥類より高い認知機能を持っている可能性も指摘されています。
この点も含め、研究チームは今後も調査を続ける予定です。