太陽エネルギーシステム「MOST」
研究グループの開発したMOSTは、太陽エネルギーを蓄えた液体燃料を循環させるシステムです。
MOSTは最初、可燃性化学物質であるトルエンを使った液体で機能していましたが、現在はその潜在的に危険なトルエン燃料は取り除かれ、新しく開発されたエネルギー貯蔵分子を使って機能しています。
太陽エネルギーというとソーラーパネルのようなものを想像しますが、MOSTが使うのはパラボラアンテナのような凹面反射板です。
この凹面反射板の太陽光線が集中する部分には、パイプが通っていて、そこをエネルギー貯蔵分子の液体が流れています。
液体は、ここで太陽エネルギーを受けることで、エネルギーを保持した異性体へと変化します。
この異性体は常温の20℃近くまで冷めても、エネルギーを閉じ込めたまま維持されます。
そして、研究グループが開発した触媒によるフィルターを通すと、この液体は化学反応によって63℃ぶん温度が上昇し分子構造を元の配列に戻します。
室温20℃で保存されていた液体は、フィルターを通ることで一気に83℃の液体に変わるわけです。
こうして、液体に保存されていた太陽エネルギーは、熱の形で取り出されます。
これは家庭用の暖房システムで利用することができると考えられています。
また、フィルターを通って元の配列に戻ったエネルギー貯蔵分子は、再度太陽エネルギーの貯蔵を行うことが可能です。
このシステムでは、液体は劣化することも排出物を出すこともなく、繰り返し利用することが可能で、実験では125回もエネルギーの貯蔵と放出を繰り返すことができたと報告されています。
液体はとくに有毒な物質を使うこともなく、常温でタンクに保存することが可能で、パイプ経由やトラックによって遠隔地へ輸送することも可能です。
何らかの排出物を作ることもなく、劣化せずに繰り返し利用可能で、グループの試算では1kg当たり最大250Wh(ワット時)のエネルギーを蓄えることができるとのこと。
これは非常に有望な次世代のエネルギー源と言えるでしょう。
もちろん実用化には、まだまだやるべきことは多いといいますが、研究グループは少なくとも熱の放出で110℃まで加熱できるように液体を改良する予定であり、この技術は10年以内に商用利用されることを目指しているといいます。
実現すれば、家庭で使われる湯沸かしや暖房は、この新しい液体燃料が蓄えた太陽エネルギーだけでカバーできるようになるかもしれません。