サルとヒトのキメラ胚を培養し原腸陥入期に移行させることに成功
近年の急速な生物工学の進歩により、ブタ・羊・マウスなど様々な動物とヒトの細胞を組み合わせたキメラが研究対象になっています。
しかし、これまで作られたキメラの動物と人間の細胞比は、極めて偏っていました。
例えば2017年に作られた有名なブタとヒトのキメラでは、人間の細胞はキメラ全体の0.001%未満に過ぎません。
多くの研究者たちは、その原因を「種の壁」であると考えています。
進化の歴史においてヒトとブタが枝分かれしたのは9000万年前であり、混ぜられたヒト細胞がブタに拒絶されてしまっている…との見解です。
そこで今回、ソーク研究所のベルモンテ氏は、進化的にヒトに近いサル(カニクイザル)を用いたキメラ作成を中国の研究者たちと共同で行うことにしました。
中国の昆明科学技術大学には、サル胚を子宮外で培養する人工子宮技術を保持しており、ベルモンテ氏のキメラ作成技術と合わせることで、ヒトとサルのキメラを子宮外で育成することが可能になります。
現在、多くの国で動物とヒトのキメラ胚を子宮に入れることを倫理的に問題があるとされていますが、人工子宮の技術を使えば、そうした問題の多くを、克服することが可能になります。
キメラ作成にあたっては、ベルモンテ氏らはまず、胚盤胞の状態まで成長させたサル胚132個に対して、それぞれ25個ずつ人間の幹細胞を注射していきました。
そして中国の研究者たちの人工子宮技術を用いて、胚を成長させていきます。
すると132個のうち111個が人工子宮への着床に成功し、注射されたヒト細胞は胚盤胞内部に存在する「内部細胞塊」に組み込まれます。
内部細胞塊はその後の発生において、脳や生殖器を含む体のあらゆる部分に成長する「体の元」とも言える細胞群です。
その後、3個が胚発生の初期にあたる「原腸陥入期」に入りました。
もし胚が完全に成長した場合、理論的には、ヒトの脳を持つサルがヒトが妊娠できる精子や卵子を作る個体になる可能性があります。
本研究が倫理的に問題があると考えている人々は、この点を大きく懸念しました。
そこで予想できないリスクを避けるため、研究者たちは生き残っていたキメラ胚(原腸陥入期の3個)を19日目に破壊しました。
なお破壊に前後してキメラ胚内部のヒトの細胞の比率を調べたとこと、ブタとヒトのキメラ胚よりも遥かに高いことが確認されます。
この結果は、種の壁が低いサルなどのほうが、ヒトとのキメラ作成に適していることを示します。
さらに、より興味深い結果はキメラ胚内部での「ヒト細胞とサル細胞のコミュニケーション」にありました。