精度を調整できる古典時計
今回の研究では、電子回路に組み込まれた振動膜で時間を測る時計というものが作られました。
この時計では、振動膜が1回振動するごとに1つの目盛りが刻まれます。
時計を駆動するために消費されるリソースは、膜を振動させる熱と、それを測定するための電気的仕事です。
この時計を駆動させたとき、リソースは廃熱に変わります。
つまり、回路上で失われる熱を測定することで、この時計から生じるエントロピーを推定することができるのです。
研究チームはこの時計の、入力信号に含まれるエネルギー(熱)を高めると、振動の振幅が大きくなり、膜の測定精度を向上させると発見しました。
それはつまり、時計の精度が上がるにつれて、比例するようにエントロピーコストが増大していることを意味します。
研究チームは、この結果を量子効果に依存する時計の理論モデルと比較しました。
すると、時計の精度とエントロピーの比例関係は、量子時計と古典時計で一致していることがわかったのです。
これは熱力学の法則と、時計の間に普遍的な関係があることを示唆しています。
ただ、時計の種類は非常に多岐にわたります。そのため今回の研究だけで、この普遍性を断言することはできません。
また、この研究はエネルギー消費が大きい時計が精度が高いといっているわけでもありません。
おじいさんの大きなのっぽの古時計が量子時計よりエネルギー消費が大きいからといって、精度が高いわけではありません。
それは燃費の悪い車ほどより遠くまで行けるわけではない、というのと同じことです。
それでも、今回の結果は、時計が正確に時間を測定するために、宇宙のエントロピーを増大させていることを明らかにしました。
このことから研究チームは、エントロピーの増大が、これまで考えられていたように単に時間の進行方向を示すサインなわけではないかもしれないといいます。
「私たちはエントロピーが、時間経過を測定するための前提条件ではなく、時計の性能に対する基本的な制限であるという考えを支持しています」
研究者はそのように語っています。
これは時間の本質や、ナノスケールのエンジン効率の限界について理解を深めるための重要な知識となるかもしれません。