唾液中の「痛みを抑える成分」を特定
蚊に刺されてもたいてい痛みは感じず、刺された後で初めて痒くなってきます。
口針の細さも痛みを感じにくい理由の一つですが、最も大きな要因は「唾液」です。
蚊の唾液は、血液を固まりにくくしたり、痒みをもたらすヒスタミンを放出させたりする作用があります。
しかし、唾液成分が無痛性にどう関与しているのかは分かっていませんでした。
そこで研究チームは、感覚神経にある「カプサイシン受容体TRPV1」と「ワサビ受容体TRPA1」に注目し、鎮痛とのかかわりを調べました。
まず、蚊の唾液からTRPV1、 TRPA1の機能を抑える成分を特定するため、唾液を熱処理しました。
もしタンパク質成分が関与していれば、熱処理によってタンパク質変性が生じ、痛みの抑制効果がなくなると予想されます。
そして、95度で20分処理した結果、唾液にTRPV1、TRPA1を抑える効果がなくなったのです。
これは、唾液中のタンパク質成分が痛み受容体を阻害していることを示します。
また、同様の結果は、マウスの唾液にも発見されました。
さらに、チームは、唾液中のタンパク質「シアロルフィン」に鎮痛作用があるという先行研究から、その効果を調査。
すると、シアロルフィンが濃度依存的にヒトTRPV1、TRPA1の機能を抑制することが判明したのです。
以上より、蚊やマウスの唾液の鎮痛効果はシアロルフィンに由来すると結論されます。
実際、足裏にカプサイシンやワサビ成分を投与し、痛み関連行動を誘発させたマウスに蚊の唾液を注入した結果、痛み関連行動は明確に抑制されていました。
面白いのは、蚊だけでなく、マウスの唾液にも同じ鎮痛効果が見られたことです。
研究主任の富永真琴氏は「ヒトを含む多くの動物がケガをしたときに傷口を舐めますが、その理由の一つは唾液による鎮痛と見られる」と述べています。
今後、シアロルフィンをはじめとする唾液成分の研究により、新たな鎮痛薬が開発できるかもしれません。