文字を反転して書く理由とは
こうした独特の書き方は、文字が鏡映しになって見えることから「ミラーライティング(Mirror Writing)」と呼ばれます。
ミラーライティングは、なにも子どもだけに見られるものではありません。
これまでの研究では、大人でも利き手を変えて字を書くと、文字が反転しやすいことが分かっています。
とくに右利きの人が左手で書くとミラーライティングが起こりやすく、元から左利きの人は、右利きの人に比べて、鏡文字を書きやすいようです。
あのレオナルド・ダ・ヴィンチも左利きでしたが、残されたメモはほとんどが鏡文字となっています。
ただ彼の場合は、自分の研究を他人に詮索されないよう、あえてミラーライティングをしていたという説があります。
しかし、自然にミラーライティングをするのは、やはり子どもだけです。
ミラーライティングは、文字を覚え始めた4歳から7歳の間によく起こるとされます。
とくにミラーライティングを起こしやすい文字は、J、d、3、Sのような非対称のものです。
なぜでしょうか?
2011年に発表された研究(John Benjamins e-Platform, 2011)で、子どもたちは、右向きの文字(D、Eなど)よりも、左向きの文字(J、d、3)をミラーライティングする傾向があると指摘されました。
そのことから、研究チームは「文字の向きがまだ覚えられていない段階で、すべての文字を右向きに変換してしまうことが原因ではないか」と考えています。
これはかなり理にかなっており、ローマ字で言うと、非対称の文字のほとんどが右向きになっているのです。
一方で、B・D・E・Rといった右向きの文字を反転して書くこともあります。
結局のところ、ミラーライティングの原因は、子どものたちの脳がまだ変化しやすい段階にあることに起因します。
たとえば、幼い子どもは、右脳と左脳の働きがはっきり分化されておらず、利き手もまだ完全には確立されていません。
それにより、右左の関係性の把握があいまいになるのです。
そのため、脳の変化や利き手が安定し始めると、ミラーライティングも自然となくなります。
大人が鏡文字を書くのも利き手を変えたり、反対方向から書くなど、結局は方向感覚の混乱によるのです。