冷却材を必要としない原子炉
燃料を冷やすのが大事と言っていたのに冷却材がないってどういうことよ?
と思うかもしれませんが、溶融塩原子炉では、燃料自体を液体として循環させることで、燃料自身を冷却材として利用しています。
溶融塩というのは、数百度以上に加熱して液状となった「塩(えん)」のことです。
ちなみにここで言う塩とは食塩のことだけでなく、酸由来の陽イオンと塩基由来の陰イオンがイオン結合したもののこと。
これを核燃料となるトリウムに混ぜて液状の核燃料としたのが、今回中国が設計しているトリウム溶融塩原子炉です。
下の図が、だいぶざっくりしていますが溶融塩原子炉の仕組みです。
液体となった燃料に発火材として少量のウランを混ぜ、黒鉛で作ったトンネル状の原子炉内を通過させると、黒鉛が反射材となって核分裂が起こり、溶融塩が加熱されます。
この加熱された溶融塩が熱交換器でお湯を沸かし水蒸気を発生させます。
これがタービンを回します。
溶融塩は、再び循環して原子炉に戻り加熱されて熱交換器でお湯を沸かします。
ここで重要なのは、燃料自体が冷却材の役割も担っているということです。
溶融塩燃料は、沸点が700度近くあるため、水のような高圧で運用する必要がありません。
また核分裂反応を起こすのは原子炉の黒鉛に包まれたときなので、それ以外のところでは核分裂反応が進みません。
このため、電源が止まって循環が停止すると、自然と核分裂反応が止まるのです。
原子炉内の燃料は重力で原子炉の外に落ちていきます。(通常は原子炉の下にはドレンタンクという設備を用意する)
この方法だと原理的にメルトダウンは起こらないと考えられ、もし燃料が漏れるようなことがあったとしても、この燃料は空冷されて速やかに固体化するため環境への拡散もほとんど起こりません。
溶融塩原子炉は、原理もさほど難しいものには思えず、いいことばかりに見えます。
では、なぜいつまでも実用化されなかったのでしょうか?