フキノトウから抽出されたペタシンはがん細胞のミトコンドリアを攻撃する
あまり知られていない事実ですが、抗がん剤の開発方法は非常に地味です。
がん細胞に対して考え付く限りの化合物を加え、効果があるものを網羅的に探索していく、という過程が多くを占めるからです。
日本の岐阜大学の研究者たちもまた、この過酷な探索作業に従事していました。
が……探し方に、いくつかユニーク点がありました。
抗がん剤を探すにあたってのターゲットを、主にアジア原産の薬草や食用植物に絞ったのです。
漢方薬などに使われる薬草には未知の薬効成分が含まれている可能性があるほか、食用植物ともども、人体に対する毒性が比較的低いと期待されるからです。
また探索方法にも工夫がこらされ、植物から得られた成分を、422種類の抽出物を中心に、独自のカテゴリーに分類。
網羅的な探索に適したシステム(ライブラリー)を構築しました。
結果、日本原産のフキノトウ(学術名:Petasites japonicus)から抽出された「ペタシン」と呼ばれる有機化合物が、広範ながん細胞(乳がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、膀胱がん、前立腺がん、悪性黒色腫、肉腫、白血病)に対して非常に強い増殖抑制効果を示す一方で、正常な細胞に対して副作用が少ないことを発見します。
またペタシンに接した、がん細胞の様子を分析したところ、がん細胞内部のミトコンドリアがひどく損傷していると判明。
ミトコンドリアは細胞のエネルギー生産を担う重要な小器官として知られており、がん細胞の異常な活動力の供給源としても機能しています。
どうやらペタシンには、正常な細胞には害を加えず、がん細胞のミトコンドリアを狙い撃ちにするという、不思議な性質を秘めているようです。
細胞レベルでの効果に手ごたえを感じた研究者たちは、次に動物実験へと移りました。
ペタシンは培養皿の細胞だけでなく、生きた動物のがんも治療できたのでしょうか?