環境が維持できる岩石惑星の限界
火星の直径は地球のわずか53%程度(ほぼ半分)で、その質量は地球のわずか10%程度しかありません。
ワン氏は火星の重力が、そもそも水を含めた揮発性物質を保持しておくために足りていないと考えているのです。
そこで研究チームは、カリウム(K)元素の安定同位体を使用して、いくつかの天体の揮発性元素の存在量を推定しました。
研究チームにとってカリウムは適度に揮発性のある元素であり、衝撃などで気化しないものの、水のようなより揮発性の高い元素が惑星上にどの程度存在するか推定するトレーサー(追跡用の物質)として利用できるのです。
チームはまず、火星からやってきた隕石20個中に含まれるカリウム同位体組成を研究しました。
この火星隕石の年代は数億年から40億年で、火星の揮発性物質がどのように変化したかの歴史を記録しています。
そして、次に、これらの組成が質量の異なる3つの太陽系天体、地球・月・小惑星ベスタとどう異なるか比較したのです。
すると、火星は形成中に地球より多くの揮発性物質を失っていましたが、火星よりかなり小さい月やベスタよりも多く保持できていることが示されたのです。
これは揮発性物質の存在量が、惑星の重力と相関関係を持つことを示す新しい発見です。
これまで、水などの揮発性の物質がどの程度惑星に存在するかは主星(太陽)との距離で決定されていました。
近すぎればその熱により蒸発してしまい、遠すぎれば凍りついてしまいます。
この関係のちょうどよい距離をハビタブルゾーン(居住可能性領域)と呼び、この領域にある惑星は生命の存在する可能性がある候補と捉えられていたのです。
しかし、ここにさらに惑星の質量による分類も可能になるかもしれないのです。
遠い惑星でも、トランジット(太陽との食)を利用すると質量を推定することができるため、これは重要な指標になります。
火星は、なにか不幸な要因が合わさって水を失ったのではなく、そもそも形成時に水をもっていてもそれを保持することはできない惑星だった可能性が高いようです。
火星が荒野となってしまうのは、はじめから運命づけられていたことだったと言われると、少しさびしい感じもします。
今回の発見は、火星にどの程度の水が存在したかなどの推定にも役立てられる可能性があります。