光の速度を遅くする
クルトマイヤー氏がこのゲームを作ったのは、MITの客員教授として勤務していたときでした。
このとき彼は、MITゲームラボの仲間と共に、日常の世界で見てわかるほど光の速度が遅くなった場合を、特殊相対性理論に基づいて再現したゲームを作ってみたのです。
そのゲームは2012年に「A Slower Speed of Light」というタイトルで公開されました。
このゲームでは、ビーチボールのような球体が100個マップ上に落ちていて、これを拾うたびに光の速度が遅くなっていきます。
人間の運動速度が光速に近づく(あるいは光の速度が人間の運動速度に近づく)と、「相対論的ドップラー効果」というものが目に見えて現れます。
前項で説明したようにこれは視界の色の変化を引き起こします。
光のスペクトルはこのようになっています。
そして光の速度が遅くなると、見えている物体の色が移動によってこのスペクトルの中で一定方向へズレていってしまうのです。
具体的には近づいている方向の色は青色側にズレていきます。そして離れていく方向では色が赤色側へズレていきます。
このため見える世界の色がめちゃくちゃになったように感じるのです。
また自分の周りで流れる時間の流れも低下していきます。
ゲームの中ではこの時間の伸びを感じることは難しいですが、このゲームでは終了時に自分の持っていた時計が、停止した場所にあった時計より遅くなっていた事を示す画面が表示されます。
これによって特殊相対性理論の主張する時間拡張も、ゲームの中では再現されているのです。
また光速に近づいて動いた場合に起こるもう1つの効果が、物体の長さが歪むということです。
これは少し複雑な効果です。
移動速度と光の速度がほとんどおなじになった時、物体との間の距離によって自分に届く光の時間は大きくずれることになってしまいます。
これによって物体との距離によって、見え方が歪んでしまうのです。
たとえば、こちらに向かってくる自動車があったとしましょう。
もしこの自動車が光に近い速度で動いていた場合、前方(フロント)は現在の状態として見えますが、後方(リア)は遠くにあった過去の状態として見えます。
その結果が自動車が実際より長く伸びたような、歪んだ形に見えてしまうのです。
最後に、光の速度が移動速度と同じくらいになったとき起きる変化が、近づいてくる物体が明るく見えるということです。
これは雨の中を走っていることを想像するとわかりやすいでしょう。
前方は濡れやすいですが、後方はあまり濡れない状態になります。
これは雨粒の中を走ることで、前方に粒がいっぱい当たるためですが、光も波でありながら光子という粒子であるため、光源に向かって光速に近い速度で移動したとき、この現象が起きるのです。
これにより、近づく物体はより明るく見えます。これをサーチライト効果といいます。
光が粒子であるということもここから感じ取れるのです。
なんとも不思議な光の低下したゲームの世界。
このゲームは、MITゲームラボのサイト上(こちら)でダウンロードすることが可能です。