細胞の接着剤がなくなっていた
これまでの研究では、多くの科学者がハゲる原因は、毛包幹細胞が死んだり、老化で細胞分裂できなくなることで起きると考えていました。
今回の研究中でも細胞死は確認されていて、今回の研究の主執筆者であるルイ・イー(Rui Yi)氏は、「これまでの研究で示されてきた理論を否定しているわけではありません」と述べています。
ただ、彼らの新しい発見は、老化したとき毛包内の状況が、思っていたのと少し異なっていたことを報告しており、ハゲる問題について新しいメカニズムを提供しています。
それは、毛包幹細胞が、老化とともに毛包から真皮へと逃げ出していたということでした。
これにより、毛包内の幹細胞は大きく減少することになり、それが髪の毛の薄くなる原因になっていたのです。
毛包幹細胞は、毛包という微小環境の中で機能していた細胞です。そのため真皮に移動してしまった幹細胞は結局、適応できずに死んでしまいます。
ではなぜ、毛包幹細胞は毛包から逃げ出してしまったのでしょうか?
研究チームは若いマウスと、老いたマウスの間で遺伝子発現レベルを比較しました。
すると、老いたマウスでは毛包幹細胞の接着に関連する遺伝子の発現が少なくなっていることを発見したのです。
つまり、毛包幹細胞には、正しい位置に細胞を固定している接着剤のようなものがあり、それが老化とともに失われてしまうため、毛包幹細胞は本来の場所からズレていき、真皮に移動して死んでしまうというのです。
この事実を確認するため、次に研究チームはこの特定された細胞接着遺伝子(FOXC1とNFATC1)を、発現できないようにしたマウスを作成して様子を監視しました。
するとそのマウスは4カ月程度で急速に脱毛が進行し始め、12~16カ月以内に、完全にハゲてしまったのです。
これはこの2つの細胞接着に関連した遺伝子がハゲの原因である可能性を示唆するものです。
研究チームはこのことから、該当する遺伝子を修復することで、再び毛髪が蘇る可能性があるとして、追加の実験を行っています。
今回の調査結果は、髪や組織がどのように老化するかについての新しい洞察を提供しています。
もし追加の研究がうまく行けば、ハゲるという現象を逆転させて、再び毛が生える状態を取り戻せるかもしれません。