振動する超分子薬で神経細胞にショックを与えて再生させる
マウスの体の中でいったい何が起きていたのか?
研究者たちはさっそく、回復したマウスを解剖し、神経に起きた変化を調べました。
結果、いくつかの興味深い事実が判明します。
最も大きな変化は、ニューロンの軸索(細い部分)が伸びて再生する一方で、再生に対して物理的な障害として機能する傷跡が大幅に減少していた点にありました。
電化製品と同じく動物の手足もニューロンによる回路がつながっていないと、電気が伝わらずに機能しません。
他にも電気信号の伝達や軸索の支持に重要な絶縁層(ミエリン)が軸索の周りに形成され、神経に栄養を供給する血管系も復活しており、より多くのニューロンが生き残ることができるようになっていました。
結果は非常に良好であり、人間への応用も期待できます。
そうなると気になるのが、ナノファイバーがどうやって神経を再生させたかです。
ナノファイバーには神経の再生をうながす機能のある、複数のタンパク質の断片が埋め込まれていますが、実は断片をナノファイバーに含めるだけでは再生機能はなかったのです。
鍵となったのは、埋め込んだタンパク質断片の振動でした。
ナノファイバーには含まれるタンパク質の断片は2つの信号を発するように作られています。
1つ目は軸索を伸ばすために邪魔になる傷跡を軽減する信号、2つ目はニューロンの軸索に栄養を供給するための血管の再生をうながす信号です。
また本体となるナノファイバーは激しい分子振動をするように設計されていました。
そのためナノファイバーの周囲にある神経細胞は再生の助けになる2つの信号を高速で入力されることになります。
極論すれば、ナノファイバーは、神経細胞に対して素早い信号の明滅を繰り返すことで細胞を混乱させ、本来ならば起こらない神経再生を可能にしていたのです。
実際、研究者たちが分子振動が弱いナノファイバーでも同じ実験を行いましたが、マウスに十分な再生力を与えることができませんでした。