脊椎を損傷したマウスを再び歩かせることに成功!
今世紀に入って、人類の医学は急速に進歩しました。
しかし人類の医学は「切り取ること」や「補修すること」は得意でも「再生」は苦手でした。
特に脊椎損傷による永続的な麻痺となると現状、ほとんど打つ手がありません。
傷ついた神経を針と糸で縫い合わせて見た目の上で綺麗にすることは可能ですが、肝心の損傷部位がまともに再接続(再生)してくれないからです。
そのため現在、神経細胞を増やす幹細胞治療や、神経の再生をうながすタンパク質を体に生産させるようにする遺伝子治療や、人工タンパク質そのものを損傷部位に注射する方法など、さまざまな実験的治療法が試みられています。
しかし幹細胞治療や遺伝子治療は非常に高額であり、人工のタンパク質を注射する方法も、タンパク質自体が数時間で分解されてしまうために、効果は限られていました。
そこで今回、ノースウェスタン大学の研究者たちは細胞でも遺伝子でもタンパク質でもない、ナノファイバーを注射する方法を開発しました。
ナノファイバーの太さは髪の毛の1万分の1であり、神経の再生をうながす複数のタンパク質の断片(ペプチド)が埋め込まれています。
またナノファイバーが集まってゲル状になることで、細胞外マトリックスと呼ばれる細胞を支える細胞外環境を模倣することが可能になります。
準備が整うと、研究者たちは72匹のマウスに対して脊椎の神経を損傷する手術を行いました。
手術によってマウスは後ろ足が動かなくなり、移動するには前脚で這うようにして動く必要がありました。
次に研究者たちは手術から24時間後、ナノファイバーを損傷部位に1度だけ注射しました。
すると4週間が経過した時点で大きな変化が起きていました。
ただの食塩水を注射されたマウスは未だに後ろ脚を動かすことができませんでしたが、ナノファイバーを注射されたマウスは上の動画のように、再び後ろ足を動かして歩くことができるようになっていました。
問題は、マウスの体の中で何が起きたかです。
後ろ脚が再び動くようになったことから、脊椎の神経が再生したことが予想されますが、詳しく調べるためには解剖が必要になります。