「拡大する穴」の錯視が起こる仕組みを最新研究が解明
「拡大する穴」の錯視が起こる仕組みを最新研究が解明 / Credit:Nasim Nematzadeh & David M. W. Powers . arXiv (2025)
biology

「見つめていると穴が拡大していく錯覚」が起こる仕組みを最新研究が解明

2025.01.27 17:00:05 Monday

錯覚は脳ではなく目で起きていました。

オーストラリアのフリンダース大学(Flinders)で行われた研究によって、「拡大する穴の錯覚」は脳の働きではなく、網膜特有の信号処理によって引き起こされている可能性が高いことがわかりました。

これまで錯覚は一般的に脳の情報処理の混乱により発生と考えられてきましたが、今回の研究により、脳より遥か手前の「目の段階」で信号に混乱が起こるケースがあることが示されました。

今回の発見は、他の錯視現象や自然界に見られるパターン(目の段階での錯覚を促すようなパターンがあるか)を解明する手がかりにもなると期待されています。

研究内容の詳細は2025年1月15日に『arXiv』にて「拡大する穴の錯覚の生物学的妥当性モデル:網膜処理と錯覚的運動に関する洞察(A Bioplausible Model for the Expanding Hole Illusion: Insights into Retinal Processing and Illusory Motion)」とのタイトルで公開されました。

A Bioplausible Model for the Expanding Hole Illusion: Insights into Retinal Processing and Illusory Motion https://doi.org/10.48550/arXiv.2501.08625

見つめていると穴が拡大していく錯覚

「拡大する穴」の錯視が起こる仕組みを最新研究が解明
「拡大する穴」の錯視が起こる仕組みを最新研究が解明 / 左側の図では見つめていると穴が拡大するような錯覚が起こります/Credit:Nasim Nematzadeh & David M. W. Powers . arXiv (2025)

私たちが「見ている」と思っている世界と、本当の物理的な世界が完全に一致しているとは限りません。

その“ズレ”がわかりやすい形で現れるのが錯覚(イリュージョン)です。

コントラスト(明るさや色の差)や形のパターンなど、ちょっとした要素の組み合わせによって、私たちの視覚は簡単に「だまされ」てしまいます。

たとえば、静止画なのに動いているように見える回転錯視や、平面的な図形が立体的に見える錯視など、さまざまな種類が知られています。

こうした錯覚を研究することで、がどのように視覚情報を処理しているか、つまり「何を頼りに世界を『再構築』しているのか」を探る手がかりが得られます。

ただ一口に錯覚と言っても、その原因はさまざまです。

たとえば、「回転する円の錯視」の一部は、脳内の視覚情報処理における“通信の遅れ”や、目が微妙に揺れ動くマイクロサッカードと呼ばれる現象によって引き起こされる場合があります。

一方、錯覚の中には脳の高次処理ではなく、目(網膜)そのものの性質が大きく関わっている可能性が示唆されています。

つまり、同じように「動いているように見える」錯覚でも、原因が脳の奥で起きているのか、それとも網膜や目の動きなど初期段階にあるのかで、メカニズムは大きく異なるのです。

今回注目されている錯覚は、中央に黒い穴のような部分があしらわれた図形を見ていると、まるでその穴が「奥へ奥へ」と広がっていくように感じられる現象です。

「ホワイトホール」と呼ばれる、逆に中央が白いパターンでは、眩しい光に近づいていくような感覚が生じ、実際に瞳孔が縮む生理反応も観察されています。

このように、たった1枚の静止画が私たちの視覚を欺き、暗い場所へ移動しているかのように錯覚させるのはなぜなのか――それを明らかにすることは、視覚研究の大きなテーマの一つになっています。

そこで今回、フリンダース大学の研究者たちは「拡大する穴の錯覚」が起こる仕組みを解明することになりました。

次ページ「拡大する穴の錯覚」はどこで起きているのか?

<

1

2

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

生物学のニュースbiology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!