なぜ「DNAより前のコード」を疑うのか?
従来の“定説”では、初期の地球環境下で合成しやすかった小型アミノ酸(グリシン、アラニンなど)が先に遺伝コードに組み込まれ、硫黄を含むシステインやメチオニンなどは後に追加されたと考えられてきました。
その背景には、1952年に行われた有名なユーリー・ミラー実験があります。
硫黄を加えなかった条件で行われたため、硫黄含有アミノ酸が発生しなかった――この結果から「硫黄系は後発」というイメージが長年支配していたのです。
ところが、新たな研究では「初期の生命には、実際には硫黄が豊富な環境下で合成・利用できる条件があり、金属結合や硫黄代謝に重要なアミノ酸(システイン、メチオニン、ヒスチジンなど)は思ったより早い段階で使われていた」と示唆されました。
従来、この“アミノ酸がコードに加わった順番”を推定する方法としては、トリフォノフ(Trifonov)による40種類の異なる指標を統合した「コンセンサス・ランキング」が広く参照されてきました。
しかし著者たちは「いくつかの指標は、初期地球での“非生物学的な(アビオティック)”存在量を根拠にしているが、実際の“生物学的な(バイオティック)”利用量とは必ずしも一致しない」と指摘。
むしろ“後から進化してきたかに見えるアミノ酸”も、実は既存の細胞が持つ酵素や代謝を使って合成・利用していた可能性があるのではないか、と考えたのです。