北極圏の秘密兵器:ホッキョクグマの毛皮が濡れても凍らない本当の理由が判明
北極圏の秘密兵器:ホッキョクグマの毛皮が濡れても凍らない本当の理由が判明 / Credit:Julian Carolan et al . Science Advances (2025)
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北極圏の秘密兵器:ホッキョクグマの毛皮が濡れても凍らない本当の理由が判明

2025.02.05 13:00:43 Wednesday

氷点下の海で泳いだ後でも、ホッキョクグマは体に氷が張りついている様子がありません。

テレビやドキュメンタリーでその姿を見た多くの人が、「どうして凍らないのだろう?」と不思議に思ったことでしょう。

実際、極寒の北極圏でホッキョクグマはどのようにして毛皮を氷から守っているのでしょうか。

ノルウェーのベルゲン大学で行われた研究によって、ホッキョクグマの毛皮の耐氷性は毛皮自体の特性ではなく、毛に分泌される天然の油によるものであることが示されました。

本記事では、この“ホッキョクグマの凍らない毛皮”に秘められた仕組みを、最新の研究結果とあわせてわかりやすく解説します。

研究内容の詳細は2025年1月29日に『Science Advances』にて発表されました。

Anti-icing properties of polar bear fur https://doi.org/10.1126/sciadv.ads7321

なぜホッキョクグマの毛は“凍っていない”ように見えるのか

北極圏の秘密兵器:ホッキョクグマの毛皮が濡れても凍らない本当の理由が判明
北極圏の秘密兵器:ホッキョクグマの毛皮が濡れても凍らない本当の理由が判明 / Credit:Canva

まず前提として、ホッキョクグマの体は一本一本が中空構造になっており、高い断熱性を持ちます。

また、厚い皮下脂肪と黒い皮膚によって体温を保ち、極寒の地でも体を温められることが従来から知られていました。

しかし、外気温が氷点下なのに加え、泳いで毛が濡れることもある厳しい環境で「毛自体が凍りつかない」という謎は、これだけでは十分に説明できません。

研究者たちは、野生映像や赤外線カメラのデータから、ホッキョクグマの毛の表面温度が周囲とほぼ同じ氷点下まで下がっている可能性に気づきました。

それでもなお、毛が凍りついたり氷がこびりついたりしていない現実があります。

そこには、従来あまり注目されていなかった「油分」という決定的な秘密が隠されていました。

今回の研究は、ノルウェーのスヴァールバル諸島で入手したホッキョクグマの毛皮サンプルが大きな鍵となりました。

物理学者ボディル・ホルスト氏らのグループは、ホッキョクグマの毛皮を洗浄処理したものとしなかったもの、人間の髪の毛、そしてスキー板に使用されるフッ素系化合物コーティング(いわゆる“スキーワックス”)のサンプルを比較する実験を行いました。

研究チームはそれぞれのサンプルの上に氷を作り、氷の塊を押しのけるのに必要な力を測定し、「どれだけ氷が毛皮や表面にくっつきやすいか」を数値化しました。

その結果は驚くべきものでした。

洗っていないホッキョクグマの毛皮:氷が非常に付きにくく、市販の最高級スキー板に匹敵するほど簡単に氷を押しのけられた。

洗って油分を除去したホッキョクグマの毛皮:氷を押しのける力が4倍近く増大し、防氷効果が激減した。

人間の髪の毛:油分はあるものの、ホッキョクグマの毛皮ほどの防氷効果は示さなかった。

これらの結果から、ホッキョクグマの毛皮の最前線である「表面の油分(皮脂)」が、氷を寄せつけない最大の要因であることが確認されたのです。

そうなると気になるのが油の正体です。

いったいどんな油が凍結耐性を授けていたのでしょうか。

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